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完全な代わりにはなれないが、アルカードが喜んでいるならそれで良い。
バージルはそっと笑みを溢した。
でも突如、頭が冷静になる。
こんな時、水を差す様にシャノンが何か言うんじゃないか。
そんな思考になって、シャノンを見やる。
彼は家の中をゆっくり観察していて、珍しく口を開かなかった。
凝視していたら一度目が合ったけど、何事もなかった様に逸らされた。
けれど、こちらの事は気にしているみたいで、珍しくそわそわしている印象だ。
何を考えているかはわからないけど、三人でこうやって居る事には応じるらしい。
とりあえず、後で話してみようかと考えながら、その状況作りについて思い付く。
「もう夕方だし、調理も食事もそれぞれでみたいだから、そろそろ食料取りに行ってくるな」
アルカードにそう言い残して、バージルは家を出た。
村人達も夕食の準備に取り掛かっているらしく、外には誰も居なかった。
どうしようかとうろうろしていたら、遠くの方で人影を見付ける。
そちらの方へ歩いて向かうと、ちょうどカラムの家の前。
彼はドアの前に居て、中に入る前だ。
「カラ……!」
話し掛けようとした途端、カラムは目の前の壁を強く殴り付けた。
下ろした拳には血が滲んでいて、あまりの光景にバージルは痛そうな顔をする。
すると、人の気配に気付いたんだろう。カラムは素早くこちらを振り返った。
「っ! ……なんだ」
怒りに満ちた表情は驚いた顔に変わり、最終的には落ち着き払った顔付きになっていた。
バージルは用件を思い出し、慌てて口を開く。
「あっ、悪い! 食料貰おうと思って……」
「そうか、食料庫に案内してやる」
カラムは家から離れると、率先して前を歩き出す。近くに寄れば、怒りの気配は感じなくなっていた。
バージルは隣を歩きながら、彼の怒りの理由について会話を試みた。
「あのさ……やっぱ、ジジイが村に入るのは嫌だったか?」
こちらを見下ろすカラムは何も応えず、ただ歩きながらバージルを見詰めていた。
図星なんじゃないかと感じて、バージルは自分なりの言葉で想いを伝える。
「たしかに吸血鬼だけどっ、あの人は俺達の力になってくれた人だ。悪い奴ではないから、わかって欲しい」
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