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無理な相談なのは百も承知。それでも、関わるからにはアルカードへの対応を考慮して欲しかった。
アルカードの過去の出来事を聞いて、よりバージルはそう感じていた。
更に、マイペースな仲間についても言及する。
「あと、シャノンも。俺ともよく喧嘩してたし、誤解されやすい奴だけど……今は、傷付いてんだと思う。さっきの話し合いの態度は悪く見えただろうけど、許してやってくれ」
シャノンの事は、正直言って嫌いだった。それが過去形なのには理由がある。
相棒を失って同じ痛みを知り、行動を共にしてからは彼の心境の変化も感じている。
完全にはわかり合えていない。それでも、嫌いとは簡単に言えない複雑さがあった。
自分の想いがカラムに伝わっているのかは、正直心配だ。
どうなのかと不安に思っていたら、彼は突然質問してきた。
「惨劇が起こる前、寄宿舎での生活は楽しかったか?」
思ってもみなかった方向からの質問。二人については完全にスルーだったから、今は触れない方がいいかと考えた。
それでも自分に質問はしてくれたから、仲良くなるきっかけとして、快く応じる。
「あぁ、楽しかった。もう戻れねぇけど……良い思い出になってる」
No.持ちとの談話室での日々や、ダイニングでのマルテル達との時間。
悲しい結末を迎えはしたが、バージルにとってはかけがえのない素晴らしい思い出だ。
その感情は表情にも乗り、無意識に楽しそうな顔を作っていた。
ふと我に返った後、頭に温かな手の感触を覚える。
「そうか」
カラムを見上げたら、さっきの怒り顔とは打って変わって、初めて目にする表情をしていた。
迫力のある顔からは想像出来なかった、優しい大人の顔。まさしく兄貴を感じさせる様な表情だった。
思ってもみなかった反応に最初は驚いたけど、これから仲良く出来そうな気がして安心した。
微笑みのヤマは過ぎたけど、カラムにはまだ少し笑みが残っている。
歩く方角からは、大きな建物が見えてきた。
「食料庫はこっちだ。疲れてるだろうから、今日は多めに貰え」
「あぁ、ありがとうっ」
垣間見えた優しさに嬉しさを湧かせて、バージルは三人分の食料を籠に見繕った。
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