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指摘すれば、こちらの方をちらりと見るだけで文句は言わない。
今度は極端にペラペラにしようとしていて、何度か空切りしていた。包丁がまな板にぶつかる音が虚しく響いている。
まさかと思いながらも、バージルは浮かんだ事をそのまま口に出していた。
「お前、料理やった事ねぇのか?」
「ほとんどない」
まな板に視線を向けたまま、シャノンは淡々と応えた。
返答は想像通り。けれど、彼の生い立ちを思い出し、疑問が湧く。
「でも、一人で森に住んでたんだろう?」
「その辺に生えていた草を食べたり、動物を狩っては焼いて食べていたくらいだ。細かい味付けは知らないから、塩を振って食べていた」
「マジか……」
随分と過酷な生活を送っていたらしい。なんとなく、彼の性格が形成された要因もわかった気がした。
アルカードは愉快そうに話に入ってくる。
「シャノンは野生児に近い生活をしておったんじゃな」
「野生児じゃない、普通だ」
不服そうにしながら、シャノンはゆっくりと包丁を扱っていた。
手付きも危なっかしいが、一緒に住む以上、特別扱いは出来ない。
「今日からここ住むんだし、料理も少しずつ覚えろよな」
一応釘を刺し、バージルは自分の持ち場へ戻った。
沸騰したお湯の中に芋と塩を入れ、茹でていく。
その工程を眺め、シャノンは突発的に喋り出した。
「お前、どうやってこの村に入ったんだ?」
「あ?」
なんの脈略もない、料理以外の質問。思わず顔をしかめた。
「村は見付けにくい場所にあったんだろ。眼帯の男はお前の血の匂いがどうとか言ってたが……」
「いや、それは……」
へこたれる事なく切り込んでくるシャノン。理由が言いずらくて、バージルは口ごもっていた。
すると、アルカードまで鋭く切り込んできた。
「ひょっとして寝てたんじゃないか? お前さん、長らく寝不足じゃろう」
ギクリと、顔を引き吊らせてしまう。
「いや、俺はちゃんと寝てたって! ほら、食うの遅くなるし、早く作るぞっ!」
早口で喋り、視線を逸らす。それしか逃れる方法がなかった。
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