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思い掛けず和やかな食卓を囲んだ後、バージルは割り当てられた部屋のベットに寝転んだ。
二つあった空き部屋は、それぞれがシャノンとバージルの部屋に。
アルカードは睡眠をあまり必要としないみたいで、リビングのソファが彼の寝床となった。
寄宿舎であれば、当番制で夜の見回りに行くのが日課。
この村でもその習慣はあるらしいが、今日村に来たばかりと云う事で免除になった。
夕食の後片付けを終えてからは何もやる事がなく、ただベットに寝転がるだけ。
ぼんやり天井を見ながら眠気が来るのを待ってみたが、目はずっと冴えていた。
「やっぱ、ダメか……」
湖に着いてからも眠っていたから、睡眠欲求はないのかもしれない。
ここでこうして居てもダメだと感じ、ベットから起き上がった。
一度水でも飲もうかと思い、バージルは部屋のドアを開けた。
リビングにはアルカードが居るだろう。軽く話でもして気を紛らわせようと、足を運ぶ。
しかし、目に飛び込んできたリビングの場景には、シャノンが居るだけだった。
見回してもアルカードの姿は見当たらず、ソファに座っていたシャノンに何気なく尋ねた。
「あれ、ジジイは?」
「この辺りの夜の様子を知りたいらしい。見回りがてら散歩して来ると言っていた」
「へぇ……」
剣を膝の上に乗せ、ブレードを厚布で黙々と拭くシャノンをじっと眺める。
寄宿舎では見た事がない光景で、少し珍しい。
手持ち無沙汰で、ソファに座るしか行動も思い付かず、端の方に腰掛けた。
シャノンも珍しいと感じたのか、ふいに振り返ってぼそりと呟いた。
「やっぱり眠れないのか?」
「っ……そういう訳じゃっ」
言い当てられてドギマギしていたら、見透かす様な瞳が鋭く細められた。
「隠すな。何かあるなら言え」
寄宿舎時代みたいにきつく責め立てられるのかと思い、嫌そうに顔を歪めた。
でも、実際は違っていて。
「しばらくは、慣れない環境に身を置く事になるだろ。気が休まらない事もあるだろうから、吐き出せる事は吐き出せ」
こちらに配慮を見せるみたいな、柔らかい表現。
刺付きそうだった心が溶かされた。
少し言いにくいが、バージルは苦い顔をして不安を打ち明ける。
「寝るの……少しこえーんだよ」
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