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「宵闇だけついて来い」
少しだけ迷う素振りを見せた後、そう言って石室の奥へとリークが歩きだした。
「俺だけ?」
「モノは分からんが、ここにも『それ』があるはずなんだ。
本来部外者は出入りできないよう結界が張ってある。
入り口は私達と共にいたから入れたようだが、奥の境界はそこの青毛は越えられん」
ラグが頷いて苦笑した。
「お前が寝てる間に確かめたんだがな、オレだけだとこの部屋すら出れねーみたいなんだ。
ここでダラダラしてるから行ってこい」
言うが早いか本当に荷物を枕にして横になる。
「お前ホント緊張感ねぇな・・・・
わかったよ。何かあったら呼べよ?」
宵闇は半眼で声をかけ、リークの後を追いかけた。
しばらく暗い通路を2人は進む。
リークはあれ以上の説明をする気はないらしく、宵闇も判らないことだらけで何から聞くべきかを決めあぐねていた。
結果、全く会話がない。
(重苦しすぎる・・)
げんなりしてきた矢先、突然通路を塞ぐ石壁ににつきあたった。
「行き止まりじゃねーか。」
上下左右どこにも別に通れそうな場所はない。
疑うような視線を向ける宵闇と対照的に全く平然とした様子のリークが歩を進める。
「見た目は壁だがこれが境界だ。行くぞ。」
言いながら、リークはためらいなく壁に向かって歩いていった。
微かに光の波紋を浮かばせながら足の先が埋まり、顔が埋まり、体が埋まり、見る間に白銀の髪しか見えなくなる。
「何つう厳重さだよ。
俺が行ったら壁にぶち当たるとかはねーよな・・」
呟きつつ、宵闇も後に続いた。幸い、同じように抵抗なくすり抜ける。
不思議な壁のその先にあったのは、暗い通路続きではなくさっきまでいた石室でもなく、
一面の砂漠。
気温は本物のような高温ではないが、見る限り砂と空しかない。
(どーいう仕掛けになってんだこれ。場所飛び越えでもしたのか?)
周りを見回す月の眼がすこし前で蹲る白い姿で留まる。
何故か1回り小さくなった背中からミシミシという不気味極まりない音が微かに鳴っていた。
「!? おい!」
慌てて走り寄る宵闇をリークは制止する。
「触るな!
この・・・場所の影響で身体に掛けていた術が解けただけだ。
お前、先に行け」
「ンなことできるか!すげぇ苦しそうじゃねえかよ!」
怒鳴って肩を貸そうとするが、気遣われた方は苛立ったように自分で立ち上がった。
「先ほどまで私に向けていた敵意はどうした。青毛が心配する訳だ」
「休戦っつったろ。
そー言うの放っとけねぇタチなんだよ。
って、・・お前!?」
言葉を失った宵闇を翡翠の眼が睨みつける。
「じろじろ見るな。」
背が低くなっている分、下から見上げられる状態で更に怖い。
(見るななんて無理だろ)
そう心の中で突っ込んでおく。
リークは、服装・髪型・雰囲気はそのままに
性別が変わっていた。
特別大きくはないがはっきりと胸が出ており体つきが丸い。
「フィレットと言い、お前と言い、幻将ってのは姿変える決まりでもあるのか? 」
「決まりなどないが珍しくもない。
半数が何らかの必要があって姿を偽っている」
戸惑い混じりの問いに、溜息混じりの答えが返される。
理由を求める視線に、リークは仕方なしにと吐き出した。
「翼島は、この剣を使える男が代々幻将から王になる慣習があり、兄は剣との波長が合わなかった。
父は次の子に男を希望したが、産まれたのは女だったと言うだけの話だ。
常に掛け続けているから、こんな場所にでも来ない限りは解けはしない。
骨格や筋肉も変化させているから、運動能力も多少上がるしな」
事も無げに言い切って絶対に他言するなと念を押すと、宵闇に背をむけて歩き始めた。
(慣習って、そんな簡単に納得できることか?)
そんな事を思ったが、リークの背はそれ以上の詮索を拒否するような空気を纏っていた。
僅かな明かりが灯された石室。静寂の中で紫の瞳が開かれる。
「置いてきぼりってのも暇で寂しいもんだな。あいつら何処まで奥に行ったんだか」
起き上がって少し乱れた髪を解いて結び直し、横に置いておいた短刀や火薬などの入った小瓶、針などが並ぶベルトを腰に巻いて位置を確かめる。
「外の奴らがまた増えやがったか・・
入って来れねぇのが救いだが、放っとくしかできねぇのもちょっと悔しいな」
不満と諦めの混じった息を吐き、遺跡の入り口の方へと意識を向ける。
実際には見えないが、すぐ外に得体の知れない敵意が増え続けていた。
10や20ではきかない様子に、ラグの顔に焦りが混じる。
(このまま増えると厄介だ・・2人とも、早く帰ってきてくれよ?)
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