序章

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序章

ナティ・アルシュ 広がるは霧の海、浮かぶは六つの大陸。 有翼種、徒人、精霊、魔族、獣人・・・ そこに生きる知恵ある種は時に争い衰退し、時に隆盛を誇りながら、今は均衡を保ち各々の暮らしを送っていた。 創暦4068年・9の月 「ったく、面倒臭ぇな・・・・・・」  ゴトゴトと揺れる馬車の荷台で、宵闇は欠伸をしながら呟いた。 横に置いてあった黒い外套と小さな袋に手を伸ばしつつ、漆黒の長い髪の間から覗く元々眼つきの悪い月色の眼を更に剣呑にして後方を見る。 はためく荷台の後ろ布の向こうには怒号と土煙を上げながら迫り来る、いかにもガラの悪そうな集団がいた。 「止まれ」だの「積荷を置いていけ」だのと非常にやかましい。 「十人ちょいってとこか」  げんなりした顔でため息をつき、前にある御者席で必死で馬に鞭を振るう特に見映えのしない中年男の方を向いた。 「この調子じゃすぐ追いつかれるな。どうすんだ?」 「何呑気な事言ってんだよ!あんた!!」  思った通りの悲鳴じみた反応が返ってくる。次に来る言葉も宵闇は安易に予想できた。 「他人事じゃないだろっ。 は、早くあいつらを何とかしてくれよ!」 (やっぱそうくるか) 「言っとくが別に他人事にしたっていいんだぜ?俺だけなら今すぐにでも逃げられるし」 「帰りが遠いからって乗せてやっただろ!恩を仇で「恩?」 言いかけた言葉を男は思わず飲み込んだ。 自分を見る眼に明らかに怒気が混ざっているのが判ったからだろう。 「たかが荷物乗っける所に金持ちが乗る立派な馬車なみの値段つけて、 『この辺りは賊が縄張りにしてるからルート変えた方がいい』って忠告を無視して、いざ襲われたら助けろってか? 虫良すぎだろオッサン。 はっきり言って俺は、あんたみたいなセコイ奴は少しぐらい痛い目見るべきだと思うんだが?」 「み、見捨てる気か!?」 青ざめて半泣きの男に宵闇は首を振った。 「あんたの返事次第だ。取引しようぜ?」  わざと少し意地悪く口の端を上げる。 「こっからフェルガリアまでの護衛。契約料はさっき俺が乗り賃で払った額の二倍。  嫌とは・・・・・・言わねえよな?」 
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