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「これまではただ、運が良かっただけです。アンデットは動物をアンデットに変える、山頂付近の動物……魚だってアンデットになっているかもしれない。アナタのこの家がいつ襲われるか分かりませんよ!」
行商人さんは、より一層手に力を込めて、私の腕を引っ張った。男の人の力は強くて、とても抗えそうにない。
けれど私には、どうしても振り払わなければならない、理由があった。
バシッ――。
「ナターリヤさん!なにを……」
私は、ひっそりと置かれていた壺を抱え上げた。
成人男性のお骨が入った壺だから、それなりに重い。
けれど、私にはとても大切なものだ。
「……それだけでいいのですね?もう戻れませんよ?」
私が頷くと、行商人さんも頷いた。
住み慣れた家を出て振り返ると、今までは気付かなかった傷や破損に目がいった。
ひとりだったから、全部後回しにしてきた修理も、もうしなくて済む。
父との思い出だったから、この場所に住み続けたけれど、もう私にはどうすることもできない。
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