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最後なのだと思うと、ポロポロと涙がこぼれた。
行商人さんが先導する道は、私の通ったことのない道で、これからどうなるのだろうかという不安が募る。
「どうぞ」
行商人はグシャグシャになった私の顔をみて、ハンカチを手渡してくれた。
「何も心配はいりません。お父上には稼がせてもらった恩がありますから、当面の生活は私が保証しますよ」
父はただの、頑固な染師だった。
頑固で真面目で、嘘なんてつかない人だった。
嘘をつけるほど器用じゃなかった。
「お父上の技術を受け継ぐナターリヤさんなら、大成しますよ。私の国では、とても人気ですからねえ」
今思えば、行商人さんが私しかいないこの家に来る事自体不思議だった。
聞いてしまうと、もう来ないと言われそうな気がして、黙ったたままだったけれど、そういうわけだったのかと得心した。
「今さらですが、構わないですね?国を離れても」
父もいなくて、嘘つきだと言われ。
そしてアンデットがうろつく場所に、留まる理由もない。
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