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「そんなバカな。熊が食料を10年間も運び続けるなんて有り得ない」
警察は疑った。確かに不思議な話だ。でも僕はこの目で見た。
「じゃあこれを観てください」
ディレクターが撮影したカメラを再生し始めた。草むらを抜け蔵へ入る。その奥の壁の穴から下へと続く石の階段が映し出される。そしてそれを下りると鉄格子が見えた。鉄格子の中がズームされ器や布団が映し出される。その異様な光景にさすがの警察官も身を乗り出し息を呑んだ。
『まさか……荒熊くん?』
僕の声だ。荒熊くんの声に反応して僕が発した声だ……だが荒熊くんの声は聞こえなかった。何故……?
僕が独り言を言いながら鉄格子に近付いた。そして布団がアップになり……。
「嘘!!」
布団には白骨の、頭蓋骨があったーー。
警察はすぐに動いた。行方不明者の保護ではなく、身元不明の白骨死体の調査のために。
僕には何が何だか分からなかった。確かに僕は荒熊くんと話をした。そして荒熊くんと熊が仲良くしている場面も見た。しかし録画された画像には白骨しか映っていなかった。熊は実際に写っていた。木の実を鉄格子の向こうに差し入れる姿も。
カメラは証拠品として警察に提出させられた。「絶対返してくれ」とディレクターは警察に食ってかかったが、いつ返されるかは分からない。
しばらくして、白骨は荒熊くんだと判明した。荒熊くんは小さい頃から乱暴者で、村の子どもたちをいじめたり他所の家に忍び込む事もあったという。それで両親が村から離れた山の中に住むようになり、地下に座敷牢を作って息子を閉じ込めていたらしい。
「だから村の人たちはあの家の事を忌み嫌っていたんでしょうか」
「それだけじゃなさそうだ」
「まだ何か?」
「村人たちの反応が妙じゃなかったか?」
「僕たちを荒熊家に行かせたくなかったんでしょう」
「何でだ?」
何で? そういわれれば妙だ。別に空き家なんだから構わないはずだ。
いや待て。僕たちが行かなきゃ白骨は出てこなかった。荒熊くんは行方不明のままだった。村人たちは座敷牢の事を知られたくなかったのだろうか。だとしたら。
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