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「えっと……ジュースありますか?」
「東京の人間なんだろう」
「そ、そうです」
「帰れ。今すぐ帰れ」
「え、何故ですか? って、何で僕が東京の人間だと?」
お爺さんは無言で僕を睨み続けている。僕を東京の人間だと知っているという事は、さっきのお婆さんが連絡したという事なのか。田舎の連絡網は侮れない。しかし、それなら話は早い。
「そうです。東京のテレビ番組”山の中の一軒家”のスタッフです。この写真の家をご存知ですか?」
僕はお爺さんに写真を見せた。しかしお爺さんは写真に一瞥もくれず更に僕を睨んだ。
「帰れ」
お爺さんは「帰れ」の一点張だった。仕方なく僕はジュースも買わずに店を出た。車に乗り込むと店の中から僕たちを見つめるお爺さんの姿が見えた。いや、お爺さんだけではなかった。周囲の家々の窓から僕たちを見つめる目、目、目……。
「出せ」
「行くんですか?」
「ああ」
「でも、なんかヤバそうですよ」
「ドラマじゃないか」
確かにドラマの匂いはするが、とてもアットホームな人生ドラマではなさそうだ。
しばらく走ると人家が途切れた。またしばらく走ると田畑が途切れた。あとは鬱蒼とした山道がただ続いているだけだった。さらに走ると「熊出没注意」の看板があった。
「熊出るんでしょうか」
藪の中を気にしながら運転する。
「ビンゴ。出るぞ」
「え!?」
ディレクターはパソコンで何やら調べていた。
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