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事件現場
車を降りると一面草だらけ、まさに足の踏み場もない状態だった。それでもディレクターは嬉々として家へと進んで行く。僕も草をかき分けあとを追った。
ディレクターが玄関の引き戸をガタガタさせていた。どうやら鍵が掛かっているようだ。
「諦めて帰りましょう……って、え!?」
ディレクターは戸を外した。
「どうせ誰も住んでないんだ。それにほら」
ディレクターが縁側を顎で示した。ガラスは割れてカーテンが揺れていた。
「あっちからも入れるけど、玄関から入るのが礼儀だろう」
空き家に入るのに礼儀もなにもない。それでも一応「お邪魔します」と声をかけてから僕も家の中へ入った。
家の中は想像以上に暗かった。裏は山だし、家の横には大きな木が葉っぱを好き放題茂らせ、窓も蔓や草に覆っている。しかしそこはテレビの取材。ディレクターは照明で家の中を照らした。
「うっ……」
物が散乱していた。タンスも叩き壊されている。襖には鋭い物で切り裂かれたような筋が何本もあった。熊の爪痕のようだ。
身震いがした。熊は近くにいるのだろうか。この家に棲み着いていたらどうしよう。足がすくんで動けない僕を置いてディレクターは襖を開け隣の部屋へ入った。
「ここが現場か」
ディレクターは興奮気味にカメラを回し始めた。
「現場?」
恐る恐る僕も隣の部屋へ入る。
「ウッ!」
そこは多分夫婦の寝室だったのだろう。布団が敷いたままになっている。が、その布団はどす黒い何かが染み付き、綿が出るほど引き裂かれていた。
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