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階段は母屋の下へと向かっていた。ディレクターが照らす明かりを頼りに前へ進む。すぐに階段は終わった。しかしそこには思いもよらぬ光景が現れた。
「これは……」
階段を下ると、そこには鉄格子があった。なんとも言えない悪臭がする。汗と生ゴミとトイレの臭いが混ざったような。思わず手で口と鼻を塞いだ。
「座敷牢だな」
僕と同じく口と鼻を押さえながらディレクターがいった。
「それって……」
精神病院のなかった時代、精神に異常をきたし、暴力を振るう家族を監禁するために作られたのが座敷牢だ。戦後には禁止されたはず。しかし牢の中にはプラスチックの器や化繊の寝具がある。器のキャラクターには覚えがある。僕が小学生の時流行っていたアニメのキャラクターだ。という事は最近まで使われていたという事か。
「う……ん……」
布団が動いた! 僕とディレクターは思わず後ずさりし尻もちをついた。
「誰?」
布団から顔を出したのはまるで骸骨のように痩せこけ、目だけが大きく見える男だった。
「まさか……荒熊くん?」
「うん」
何という事だ。息子は生きていた! だが何故だ。何故生きている。10年も閉じ込められたまま、誰にも発見されずにいたのに。そして、何故こんな所に閉じ込められているのだ。
「僕を助けにきてくれたの?」
「そ、そうだよ。こんな所早く出よう!」
僕は鉄格子に近付いた。だが鉄格子には出入り口がなかった。そして気がついた。鉄格子には傷が付いている。まるで鋭い物で引っ掻いたような。
「熊がきたの?」
「よくくるよ」
「え!? 大丈夫なの?」
この頑丈な鉄格子のお陰で襲われずにすんだのだろう。不幸中の幸いだ。
「ほら、後ろ」
「え?」
階段の方を見た。そこには黒く目をギラつかせた熊がいた。重たそうな体、太く筋肉質で大きな手足。その先には鋭い爪が。熊には死んだふりか? いやあれは迷信だ。じゃあどうすればいいんだ。武器になる物は何もない……。
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