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山の中の一軒家
その衛星写真には、山の中にポツンと一軒だけ家が写っていた。畑があるなら自給自足してるとも考えられる。しかし周囲にはそれらしきものはない。下の集落まではかなり距離もある。とても人が住んでいるとは思えない。
「没ですかね」
「いや、行く」
「どうせ空き家なんじゃないんですか?」
「金持ちの道楽で仲間とバーベキューをやるためだけに建てられた山小屋もある」
「でもそんなんじゃ番組的に面白くないじゃないですか。もっと、先祖代々の土地を守り抜くために厳しい自然と共存して住み続けているとか、都会で挫折して移住してきたとか。ドラマ性がなきゃ」
「なきゃ作ればいいんだ」
「は?」
ディレクターが不穏な発言をした。
「山の中の一軒家」は高視聴率を誇る人気番組である。山の中の一軒家で暮らす住人の人生物語や生活をお茶の間に届ける番組だ。この番組に憧れてテレビの世界に入ったといっても過言ではない。その番組に配属され、僕は有頂天だった。初めてのロケに意気揚々と出勤した。しかし今のディレクターの発言は何なのだ。まるで”やらせ”か”仕込み”のようにも取れる。
「まあ取り敢えず行ってみよう」
ディレクターは車の助手席に乗り込んだ。運転は僕だ。この番組へ配属されたくて運転の腕は磨いてきた。山道だろうが坂道だろうが苦ではない。しかしさっきのディレクターの言葉に気分が上がらなかった。
「お、村人発見。山中、聞いてこい」
「中山です」
僕は衛星写真を持って車を降りた。ディレクターは僕と村人の会話をカメラで取り始めた。
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