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あれから私は高校を卒業して、短大生となった。実家から通うには少し遠く、この機に一人暮らしをすることにした。
引っ越しの準備で段ボールに日用品を入れていた時のこと。
ふとあの人形が目に入った。人形は物を言わずに、ただこちらを見つめていた。私はついと視線を外して作業を再開した。
そして、結局人形は実家に置いていくことにしたのだった。
溺愛する一人娘の初めての一人暮らしを心配した父は、オートロックのマンションという条件を付けた。
マンションの三階、角部屋の三〇五号室。
私は新しい自分の部屋、まだまだ知らない街、そして憧れた短大生活が始まるという高揚感に染まり、そしてその気分のままに楽しい時間を過ごしていた。
ところが、引っ越してきてから一ヶ月ほど過ぎた頃。
短大から帰ってきた私は、部屋に置かれた丸テーブルの上に、あの人形があるのを見つけたのだった。
母が持ってきたのだろうか?
初めての一人暮らしだからか、週末にはマンションまで顔を出してくれていたし、毎日のように電話をしていたので、その時はあまり疑問には思わなかった。
私は人形を手に取って、部屋の片隅にスペースを作って置いておくことにした。
翌朝。
目が覚めた私を見るように、人形はこちらを向いて座っていた。
感情のない瞳が私を見つめている。
昨日人形を置いた場所は、ベッドから視界に入ることはないはずだった。
私は背筋がゾクッとする感覚を、生まれて初めて感じたのだった。
言いようのない恐怖を感じた私は、人形の視線が合わないように壁を向くように座らせておいた。
しかし。
何度向きを変えようと、翌朝にはまた私の寝顔を見るように正面の位置に戻ってくるのだった。
【次項へ続く】
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