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私は人形のことを考えないように、段ボールにしまって過ごすようにしていた。日中は視界に入らないようにしておくのが、今の私に出来る精一杯だった。
そして、ある日曜日。
短大で出来た友達がマンションまで遊びに来ることになった。
彼女、真紀は明るく誰にでも気さくな性格をしていて、私はその子に密かな憧れの気持ちを抱いていた。
部屋の中、丸テーブルに紅茶とクッキーを用意して、私達は楽しく話をしていた。そんな中、不意に真紀があの段ボールを見つめ始めた。
私はドキッとしたが、気がつかない振りをして問いかけた。
「どうかしたの?」
真紀は、はっとして私を見ると、少し悩んでからこう答えた。
「何となく気になっちゃって。あの段ボールって何か入ってる?」
私はちょっと迷ったが、相談もしたいと思っていたので段ボールを引き寄せて上部を開け、人形を取り出した。
「これ、子どもの頃から大切にしてる人形なんだ」
私の言葉を聞いているのかいないのか、真紀はこの人形を見て直ぐに顔を強張らせた。
「ごめん、ちょっと気味が悪いかも」
私は済まなそうな真紀の様子に首を振って、相談を持ちかけた。
「実はこの人形、何か変なの。実家に置いておいたはずなんだけど、いつの間にかこっちにあるし。お母さんに聞いても知らないって言うの。それに最近朝起きると目が合っちゃう気がして。私もちょっと怖くて、今は段ボールにしまってるんだ」
真紀はその話を聞いて私に言った。
「それ、怖いね。もし今必要ないんなら、実家に送るとか、思い切って処分しちゃってもいいんじゃないの?」
私は、子どもの頃大好きだった人形という想い出はあるものの、今は正直気味が悪かったので、真紀の意見に同意したのだった。
「それなら、帰る時に私が捨てておいてあげるよ」
そう言って真紀は、その人形を持って帰ってくれたのだった。
しかし、翌日。
真紀が入院した。
右手と左足を骨折する大怪我をしたのだ。私の部屋から帰る途中でバイクのひったくりに遭ってしまい、さらに引っ張られたバッグの紐が肩から外れずに五十メートル近くも引きずられたのだった。
それを知った私は、すぐに病院へとお見舞いに向かった。
病室のベッドに横たわる彼女は思ったより元気そうだったが、手足に巻かれたギブスが痛々しかった。
真紀は私に「気にしないで。貴女の所為じゃないわ」と笑いかけた。その様子に私もホッとしながら「授業のノートは任せて」などと話していた。
そして何気ない会話の中で、真紀は言った。
「そういえばあの人形、事件の後から見てないのよ。ひったくりにあった時に無くしちゃったみたい」
【次項へ続く】
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