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日常が戻ってからしばらく。
今日は退院した真紀のお見舞いに行くことにした。
痛々しいギブス姿だったが、彼女は笑顔で私を迎えてくれた。
さっそく私は「あの人形はもう供養してもらったから大丈夫」と伝えて、オカルトチックな事件の終わりを告げたのだった。
真紀は心底安心したように頷いて、私を抱きしめた。
それから私達は笑いあって、楽しい時間を過ごしたのだった。
そして彼女の家からの帰り道。
私は晴れ晴れとした明るい気持ちのまま、今日ぐらいは豪勢にデパ地下の総菜でも食べようかと買い物をして帰ることにした。
デパ地下の総菜は実家の頃に何度か食べていたが、一人暮らしを始めてからは今回が初めてだった。ショーケースに並ぶ総菜はどれも美味しそうで、私は売り場を二周してから中華のお店に決めて、お惣菜をいくつか小分けに購入したのだった。
買い物袋を手にマンションに戻って部屋に入った私は、炊飯器の早炊きボタンを押してからシャワーを浴びることにした。
私はふんふーんと鼻歌を歌いながら髪を洗っていた。
その時。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
しかし私はシャワーの流れる音で聞こえていなかった。
ピンポーン
ピンポーン
また何回かチャイムが鳴ったようだが、やっぱり私には聞こえていない。
しかし、シャワーから出てタオルで髪を拭いていた時だった。
ピンポーン
今度ははっきりと私の耳にも聞こえてきた。
私は一瞬で恐怖に凍り付いた。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
鳴り響くチャイムに、恐怖で固まった体を無理矢理動かして、まだ体が濡れているのも構わずベッドに潜り込んで蹲った。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
それからも何度かチャイムが鳴り続けていたが、私は目を瞑り、耳を塞いで無視し続けた。
しばらくして。
チャイムの音が聞こえなくなった。
ドン ドン
今度はドアを叩く音がする。
ドン ドン ドン
ドン ドン ドン
ドン ドン ドン
・・・・・・
・・・・・・
私はただ蹲って耐えるしかなかった。
そんな私を嘲笑うように。
ドンドンッ ドンドンドンッ ドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッ ドンドンドンドンドンドンドンッ
ダン ダンダン ダンダンダンッ
ダンッ ドカッ ダンダンダンダンッ
ダンダンッ ダンダンダンッ ドンドンドンッ
ドカッ ダンッ ドンドンドンッ ダンダンッ ダンダンダンッ
ダダダダンッ ダダダダンッ ドンドンッ ドンドンドンドンッ
ドンドンドンッ ドンドンドンッ ドンドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッ ドンドンドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンドンドンッ ドンドンドンッドンドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッ ドンドンドンドンドンッ ドンドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッドンドンドンドンッドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッ
響くドアを叩く音。
シャワーで濡れた為か、恐怖の為か。はたまたその両方か。
私は震えながら、強く目をつぶってこの時間が終わるのを待っていた。
そして耐えきれなくなった私はついに。
泣きながら。
こう呟いていた。
ごめんなさい
しかし。
それでも。
ダン ダンダン ダンダンダンッ
叩くような音はまだ響いている。
ごめんなさい
ごめんなさい ごめんなさい
ドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッ
ドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッドンドンドンドンドンッ
ドアは壊れんばかりに叩かれている。
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
・・・・・・
・・・・・・
どのくらいの時間が経っただろうか。
ふと、静寂が訪れた。
荒々しいほどに暴れていた心臓も少しづつ落ち着いてきた。
私はふうっと息を吐くと、体中の力が抜けて突っ伏してしまった。
た だ い ま
ベッドのすぐ傍からあの声がした。
ヒュッと喉を空気が通り抜ける。
そして私は抗えない力に顔を上げさせられると、涙目になりながら声の方を見た。
そこには。
髪はチリヂリになり、
洋服や顔にも燃えた跡のある、
あの、
人形がいた。
大きな火傷が生々しく残る顔で。
・・・
暗い昏い瞳をこちらに向けて。
・・・
リリーちゃんが。
・・・
ケタケタと
・・・
・・・
・・・・・・嗤っていた。
【終】
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