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平凡に愛嬌は必要だよね!
「来た来たキター!!!」
一通の封筒を執事のギュンターから手渡され、ドアを閉めた途端、その場でクルクル回り、大声で叫んでいた。
やっと来たよ、この瞬間をどれほど待ち侘びたか!!
オルストア魔法学園から送られてきたのは、16歳になると魔法属性の力が強い子供達をオルストア王国や属国の優秀な子供達を集めて教育する学校からの入学許可証だ。
ここを卒業して初めて貴族達は王宮での仕事や領地運営、はたまた結婚や事業運営などもできる成人として認定され、庶民でも魔力が強いと入学が許可され、官職への道が多少だが開かれ、エリートの道が用意される。
事実上この大陸では最高峰の魔法学園という事になる。
その入学許可証が届いたんだ!
「これが本物かぁ、ゲームで見たのは画面越しだから、現実って感じがするよなぁ」
そう、僕はこの瞬間を記憶が蘇ってからずっと、ずーっと待ち侘びていたのだ。
「やっとここから”本編”が始まるんだ…」
とは言っても、自分は”悪役令息”。
果ては卒業パーティーでの断罪=失脚だ。
なんとか主人公と関わらず、穏便にいきたいものである。
「あ、そうだ。ヒルロースに魔法鳥で…」
右の手のひらを上に向け、呪文を唱えるとフッと現れたスズメに近い魔法鳥が手のひらにちょこんと現れて、耳元で伝言を伝える。
「作戦会議だ、鍛錬が終わったら僕ん家に集合」
クルックー
声をあげて魔法鳥がスッと消えた。
これでよし。
部屋の机の引き出しから年代物のノートを取り出し、記憶を綴ったページを捲る。
僕はアンブローズ・フォン・ファブロス。
ファブロス侯爵家、三男としてこのオルストア王国に生まれた。
父はこの国の宰相を務め、母は国王の末弟。
兄が2人居て、長男は領地運営、次兄は王国騎士団、第ニ騎士団で騎士団長をしている。
そして僕は転生者だ。
前世を思い出したのは、さっき呼び出した幼馴染のヒルロース、公爵家嫡男と彼の領地にある池で小舟に乗って遊んでいる時に彼と口論になり、突き落とされたのがきっかけだった。
三日三晩熱にうなされ、気がついたら前世の記憶と今の記憶が整理整頓されて目が覚めた。
枕元で手を握るヒルロースは泣き腫らした目で僕に謝り倒していたけど、この記憶はヒルロースに突き落とされたから思い出したのものなので、その時僕は彼の頭を撫でながら
「よくやった!!」
と褒めてやったくらいだ。
だって僕は前世で妹が夢中でやっていたBLゲーム”美しき王国〜貴族達の遊戯〜”で主役をいじめる平凡顔の悪役令息だからである。
婚約者の第一王子は天真爛漫な主人公に好意をもち、彼から卒業パーティーで断罪され、鉱山に送られる悲劇に遭う立場だ。
「なんとしてでも阻止せねば!!」
公爵家嫡男の部屋でベットの上に仁王立ちになり、硬く決心したのは記憶に新しい。
なんせ僕は美しい2人の両親から生まれたはずなのに、三兄弟の中でも1人だけ超、平々凡々の顔。
髪も僕以外は皆んな銀髪なのに、1人だけこの国の庶民で1番多い茶髪。
ただ、瞳だけは貴族にしか存在しない緑眼。
学力、体力共に平凡。
こんな僕が断罪だけならともかく、鉱山に追放されても生きていける訳がない。
何としてもでも断罪阻止!!
1.主人公はいじめない!
2.第一王子に婚約破棄させる!
3.万が一断罪されても鉱山送りにならない為に立ち回る!
4.何があってもいいように資金を調達しておく!
5.誰であっても感謝は忘れない!
一に愛嬌、二に愛嬌、三、四に愛嬌で五に愛嬌。
とにかく平凡でも愛嬌さえあれば何とかなる!!
と言う事で頑張るしかないんだよ、僕は!!
ってか、この入学までの間も結構僕なりに頑張ってきた。
攻略対象者であるヒルロースは味方に(?)なっているはずだし、断罪される攻略者の第一王子には愛想振りまいて、悪いようには思われていない…はずだ。
「よし、まずヒルロースと作戦会議だ!」
池に落ちて前世を思い出した時、俺には味方が必要だと悟り、ヒルロースにすべてを打ち明けた。
初めは信用していなかったが、資金を調達する為に、商人と開発した前世の便利グッズを次々と発明(この世界では)したのを見て、半信半疑信用するようになった…と思う。
そう僕は12歳でもう生涯賃金くらい余裕で稼いでいるし、商人を通して商業ギルドにその資金を預けてあるのだ!!
だから、今のところ資金面だけはクリアしている。
攻略対象者のヒルロースには、僕の事を裏切るなよ、とこんこんと言い聞かせてあるし。
あれこれ考えを巡らせているといつのまにか部屋には赤味がさす夕暮れになっていて、意識がとっ散らかっていたせいか、部屋のドアがノックされているのにも気付かなかった。
「入るぞ」
返事も聞かず入ってきたのは味方であり、友人であり、幼馴染のヒルロースだ。
「急に何だ、俺は騎士団見習いの訓練で忙しいのわかってるだろ?」
机の上で、ノートを読み込むのに夢中になっていた僕はやっときた相手の顔を見上げた。
確か2年前まではそんなに背丈も変わらなかったはずなのに、僕が見上げるほど背が高くなっている。
しかもこいつ、後継なのに騎士の真似事などしているせいか、筋肉が付きまくりなんだよな。
僕の舎弟のくせしてムカつく!
「遅い!もっと早く来いよ!」
「はいはい、悪かったよ、で今日は何?」
目の前に引き出しから取り出した封書を見せる。
「ふっふっふっ…ほれみろ、来たぞ、とうとう僕に学園の入学許可証が来た!」
「ああ、来ていたな、でそれが??」
「それがって!僕の運命が掛かってるってのに、ホントお前は舎弟がいがないな」
はぁ、とため息をついてヒルロースはソファーにどかっと腰を下ろした。
「運命って、空想の物語だろ?俺ら16歳になったんだから、入学許可証なんて来るに決まってんだろ、貴族席もってんだからさ」
そんな事で呼んだのか…なんて言いやがるから、奴の目の前まで行って右手で頬をつねってやった。
「いたっ…いたたたっ!!」
「これからアンブローズ、断罪回避のための第一回作戦会議を行う!」
「なんだよ、断罪って…そんな事起こるはずないだろ」
「起こるね、俺は転生者だ、何回言ったらわかる?シナリオ通りになるって言ってんだろ」
「へーへー、わかりました、で俺は何するんだ?」
「ふっふっふっ、お前には重要な役回りを与える!」
「だからなんだよ」
「『僕と恋人になる!』」
「へっ?」
「だ、か、ら!僕とお前が愛し合ってる、って事にする、第一王子のアンドリュー王子には全く興味ありません!って感じで!」
「無茶な…だってお前が俺に興味ない、って1番知ってるのあの人じゃん、ありえないだろ」
「大丈夫だ、僕とお前が今まで押し殺してきた”想い”を微妙にいちゃいちゃする場面を見せつける事で王子には納得してもらい、婚約を破棄させる、いい考えだろ?だから協力しろよ、舎弟」
「そんな…俺だけ…」
ゴニョゴニョうるさいやつだ!
ソファーに座った”やつ”は頭を抱えて何やら唸っている。
「お前俺といちゃいちゃとかできるのかよ?」
できるに決まってんだろ、バカじゃねぇの。
そうだな、こういう奴には俺が出来るって事を見せつけてやるしかないか。
手のひらで抱えた頭を張り倒し上を向かせると、顔を近付けて唇にキスをしてやった。
「ほら、簡単だろ?僕はやれば出来るんだ」
唇を離した瞬間、ヒルロースは顔を真っ赤にして僕を見上げる。
「なんだ?お前これくらいで、はぁ、さては”キス”初めてだな」
って僕も初めてなんだけどね!
「は…はぁ??は…初めてのわけがあるわけないだろ!!」
「じゃぁ誰としたんだよ?言ってみろよ!!」
ヒルロースは慌てふためいた顔をしながらまた頭を抱え込んだ。
「初めて…です…」
「ほらな」
そう、こいつが誰かとなんてあるはずもないんだ、だって僕たちはずっと2人でつるんできた。
奥手のこいつにそんな事出来るはずがない。
「さぁ、今日から『いちゃいちゃ作戦』決行する、お前は僕と出かける時はエスコートしろ!腰を寄せ、喋る時は耳元で話す」
「あのなぁ、お前はアンドリュー王子の婚約者だぞ?俺がそんな事してみろ、不敬罪ですぐ牢屋行きになるだろ」
「だ…だから、それはそーならないように秘め事的に隠れていちゃいちゃする、って設定!」
「なんだよそれ、そんなの直ぐに見破られるに決まってんだろ」
それ以降もヒルロースはブチブチ文句を言いながら頭を抱える、何度も繰り返し、最後は諦めたかのように
「出来るだけ”そう”なるように頑張ってみるよ…」
そう呟いて自分の屋敷に帰って行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
やってきました!!
入学式!
制服もピッタリ、平凡顔は変わらないけど、少しは様になってる?と思いたい。
学園は全生徒入寮って決まっているので、入寮準備も事前に完了している。
で、当日の今日、ヒルロースに迎えに来いって言いつけたけど、まだ来ないんだよな…あいつ何して…と思ってたら執事のギュンターからタッセル公爵家の馬車が到着したと聞いて玄関に駆けつけた。
乗り入れた馬車を見ながら、僕ん家より高位貴族だけあるな、でも紋章付きの豪奢な馬車で来いなんて言ってないのにな、なんて思って止まった馬車から降りてきたヒルロースを見て僕は驚いた。
彼は公爵の嫡男のくせして、見た目をあまり気にせず、会う時はいつも身体を鍛えた後だとか、僕が不意打ちで会いに行く事が多かったから、ほとんど着飾ったところを見たことがなかった。
まぁそれが彼だと思っていたので、馬車から降りてきた別人と見間違える程の美男子があのヒルロースだなんて思わないじゃないか!
「おまっ、おまっ…お前誰だよ!!」
思わず大声で叫んでしまった。
「はぁ?お前がちゃんとエスコートしろってゆうから、親父に頼んで、正式な俺ん家の馬車で迎えにきてやったんだろうが!」
僕が放心状態でその見慣れない姿を眺めていると、ヒルロースは右手を差し出してきた。
「学園に行こう、アンブローズ」
ひぇーっ、これがあのヒルロース??
まぁ、よくよく考えてみるとこいつも攻略対象者なんだよなぁ、顔も整ってるし、短く切りそろえた赤髪と栗色の瞳が合ってるし、鍛えた身体に学園の制服がバッチリ似合っている。
くそっ、結局平凡なのは僕だけってことか…
ここは僕も侯爵家としてマナーは完璧ってとこ見せないとな!
さっと左手を出しそのエスコートを受ける。
「ありがとう、ヒルロース、今日はよろしくね」
彼の方を向いて少し顔を傾けてニコッと微笑む。
平凡なりの愛機攻撃だ!
少し、ほんの少しくらいイケてると思いたい。
馬車に乗り込みふかふかのシートに腰を下ろす。
次にヒルロースが入ってきたけど、正面に座らずにさっと僕の横に座った。
「え?なんで横?」
思わず聞いてしまった。「お前なぁ、いちゃいちゃするって言ったの誰だったっけ?作戦実行するんだろ?」
「で、でもあれは皆んなが見てる時だけで…」
「何言ってんだ、見てないところでもしてないと、普段の俺とお前が出ちゃうだろ?こんなのは慣れだろ、慣れ。日頃からやっておかないとボロが出るんだよ、特にお前は」
「な…なんだよ、知ったかぶりしちゃって…」
正論を言われた気がしてふんっと顔を背け窓の外を見た。
すると隣から腕が伸びてきてヒルロースは僕の腰を引き寄せ耳元で囁いた。
「今から練習しておこうぜ、アンブローズ」
パッと振り向いて囁かれた耳を手で塞いだ。
こっ…こいつ!!
真っ赤になっている僕を見つめながらまた顔を近づけて
「お前可愛いな」
なんて言いやがるから綺麗に磨かれた上等な靴を思いっきり踏んづけてやった。
「いっ…!!」
「僕を出し抜こうなんて100万年早いんだよ、このクソヒルロース!!」
そう言って腕組みをした。
舎弟は舎弟らしく僕の言う事を聞いていればいいんだ!
そんなこんなで、あっという間に学園に到着、僕たちは見せびらかすようにヒルロースのエスコートで馬車を降り、入学式に出席したのだった。
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