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接客スーパースマイル!
今、一瞬、俺の中で北山に何か言いそうな衝動が湧いた。 でも、焦ってはいけない。 話を進めながら、彼が男性好きなのかどうかを見極めたい。 焦るほど慎重にならなければならない。
とりあえず、北山には椅子に座ってもらう。 そこで俺は一呼吸おいて、自分を落ち着かせる。
この場所は不動産屋であり、彼が新しい家を探しに来た場所だ。 まずはそちらが優先事項だ。焦る気持ちを抑えながら、後で自分に言い聞かせる。
「今回、僕が北山様の担当をさせていただきます。 :御手洗(みたらい)と言います。これから、宜しくお願いしますね」
そう言って、今までにない笑顔、いや、スーパースマイルで北山に向けて視線を送る。
スーパースマイルとは、笑顔以上の最高の表情で、自分が好みのお客様にだけ見せる笑顔のことだ。
すると、北山は僕のスーパースマイルを見た途端、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
これは手応えがあるということだろう。
その北山の反応に満足する僕。
「とりあえず、条件はどんなのがいいですか? 家賃の料金、ペットの有無、マンションかアパートか? その他、何か条件があれば探させていただきますよ」
僕は平静を装いながら話を続け、パソコン画面に視線を移す。
後は北山が何か条件を言って検索するだけだ。
だけど、なぜか北山はまだ顔を上げてこない。
そんな彼の姿さえも僕からすれば、『可愛い』としか思えなかった。
だけど、焦りは禁物だ。
手応えがあったからといって、いきなり飛びつくわけにはいかない。 今はお客様なのだから、まだそんなことはできない。
人間、自分の欲望を抑えるのは非常に大変なものだ。
それに普通の男性なら、僕のスーパースマイルで顔を赤くしないだろう。
とりあえず僕は、暫く北山が普通に戻るまで待っているしかない状態になっていた。 その間に聞こえてくるのは、他の従業員が他のお客様と会話している声と時計の秒針の音だけだ。
しかし、秒針の音さえも気になりつつも、今日の僕には時間の余裕がある。 北山だけだから。 確かに時間があれば急なお客様の対応もしなければならないが、予約のお客様は北山だけだから時間に余裕がある。 だから北山の言葉を待つことができるのだ。
そして、やっと、北山が口を開いた。
「条件は御手洗さんが決めた所でいいですよ」
その北山の言葉に、僕は首を傾げてしまった。
「どういう事でしょうか?」
そこは素直に分からなかったところなので、俺は北山に笑顔を向けて聞くことにした。
そこで俺は北山の笑顔にやられてしまう。
今までにここに入って来てから、普通の顔に真っ赤にした顔と見て来たのだけど、笑顔というのは本当に俺からしてみたら極上と言ってくらいに可愛かったのだから。
とりあえず今にもにやけそうな表情を無理矢理にも取り戻し、平常心を装う。
そして今にも爆発しそうな心臓を深呼吸をして落ち着かせるのだ。
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