このマンションでいいですよ

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このマンションでいいですよ

 とりあえず、契約も取れそうなんだから、いいのかもしれない。  急に僕の頭は仕事モードへと入ってしまったようだ。  この不動産屋という仕事は、お客様から契約が取れればいいのだから、それはそれとして仕事として考えればベストなのだから、それでいい。  しかし、冷静に考えると、さっきまでのテンションは何処に行ってしまったのであろうか、という感じだ。  思いっきり北山の言葉に期待して舞い上がってしまっていたのだから。 「僕、本当にここでいいですよ。 御手洗さん……?」  きっと、北山は僕の方にそう視線を向けていたのであろうが、僕の方は今は完全にしょげてしまっている状態だった。 だから、頭を若干俯けてしまって考え事をしていたのだから、その北山の言葉をちゃんと聞いていなかったようだ。 ある意味、お客様の言葉を無視し続けてしまっていたのだから。  次に気付いた時には、北山が下から覗き込むようにして、見上げてしまっている姿が視界に入って来てしまっていた。 「御手洗さん、大丈夫ですか?」  その北山の声と顔のドアップにひっくり返りそうになった僕。  しかもその一瞬で顔を真っ赤にしてしまっていた。  その覗いた先にあった北山の表情は、気持ちニヤリ顔をしていたように見えたのは気のせいなのであろうか。 「え? あ、だ、大丈夫ですよ……」  再び平静を装う為に、顔を上げて眼鏡のブリッジを指先で抑えて上げる。 「あの……御手洗さん……僕はここでいいんですけど……?」  完全に動揺してしまっている俺に北山は遠慮しているのか、そう控えめに言って来るのだ。  僕の方は直ぐに立て直し、 「じゃあ、後は戻って契約書に記入してもらってもいいんでしょうか?」 「あ、はい!」  とりあえずマンションはそこで良かったらしく、僕は再び北山を車へと乗せて、お店の方へと戻って行く。  それで、後は色々と審査とかして、審査の結果で、完全に北山が僕の家の隣に住むことになるだろう。 だからもう後数週間後には僕の隣に住むのは北山ということだ。 その時には寧ろお近付きになって、知り合いになって今度は仕事ではなくプライベートで会うことになって、告白して、恋人同士になってラブラブなことやあーんなことやこーんなこともってことになれるのかもしれない。 と僕は一瞬のうちにそんな妄想を済ませるのだ。
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