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健斗
鈴木 健斗はいつも思う。
自分のこの性格はどうにかならないものかと。
健斗はとにかく小さい頃から可愛かった。
ベビーカーに乗っていてもすれ違う人が二度見してしまう程可愛らしかった。
長いまつ毛。いかにも日本人的な切れ長だが大きな一重の目。
きゅっと結ばれた赤い唇。
その辺の赤ん坊のようにギャーギャー泣いたりなんて決してしない。
嬉しい時には耳障りではない程度の声でキャッキャッと笑うので、バスや電車に乗り合わせた人たちも嬉しそうに健斗を見ながらあやしてくれる。
少し大きくなって保育園に預けられてから、健斗の困った所が垣間見えてきた。
健斗はとにかく先生が自分の事を見ていてくれないと気が済まない園児がいる。
健斗は先生の目の前で転んでひざから血が出ているのに、それでも決してうるさくなんてしないのだ。
それで先生が近くに来てくれると、天使のような笑顔で先生の服の裾をつまみながら切れ長の目をウルウルとさせて見つめてくるのだ。
つい、先生方も他の子供もいるのに。と思いながら小さな健斗だけを特別に抱っこして、他の子供と遊ぶことになる。
小学校に上がると、健斗はますます可愛さを増し、低学年のうちから、高学年の女子にラブレターを貰ったり、校舎の裏に呼び出されたりした。
中には不埒にも、お人形さんのような健斗を全部剥いてしまいたいと思う中学生などもいて、何度か下校中にさらわれそうになった。
健斗の小学校は集団下校だったので、その都度同じクラスの女子たちが全力で阻止した。
そうしないと、健斗は素直にそのまま連れ去られそうになるからだ。
「健斗君。だめよ。すぐについて行っちゃ。」
「そうよ。健斗君は可愛いんだから気をつけなくちゃ。」
『うっ。本当だよ。ついて行っちゃだめなのくらい分かってるよ。
僕、でも力もないし、逆らったら殴られそうだもの。』
健斗は心の中で思った。
健斗の家は代々華道を教えている家系で、健斗も小さい頃から華道を習わされていた。
自分が大きくなるにつれて、周囲の女子たちも健斗のあまりのふがいなさにあきれるようになってきた。
健斗は女性というものに不信感を抱いて、嫌悪さえするようになっていた。
中学生になる頃、元々身体の発達は女子の方が早いとはいえ、クラスで一番小さい男子になった。
華道をしているので、姿勢は良いが、なにせ細いのだ。
運動は全て苦手で、女子とぶつかっても弾き飛ばされてしまうのでだんだん女子も可愛いだけの健斗を陰で『性同一性障害かも』などと言うようになってきた。
でも、健斗はやはり男子なのだ。中学生になってからは、女子にだって興味を抱いたけれど、男子にも女子にもなよなよとしているとからかわれているうちにあまり誰とも話さなくなっていった。
それでも、お年頃の男子である。
『あ~あ。この性格じゃ、将来彼女もできないし、結婚もできないんじゃないかしら。』
と、好きではない女子やからかう人たちが近づいてくるたびに思うのだった。
中学校も少し慣れてくると、隣のクラスにとても綺麗な女の子がいることに気が付いた。
西条 美香である。
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