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出会い
美香の方は健斗については何も気がつかなかった。
健斗はひそかに美香に思いを寄せてはいたが、本心を告げるなど、美香よりも背が低く体も貧弱な健斗は恐れ多くてできなかった。
ある放課後。
さすがに中学校では集団下校はしていないので、部活もなかった美香は一人で帰途についていた。
その時、後ろから、美香が小学校の時から執拗に美香に目をつけていた高校生がつけてきていた。
それも4人だ。
たまたま後ろから帰宅していた健斗は
『あ、美香さんだ。いつも綺麗だぁ。姿勢もいいし。』
と、みていると、いきなり大柄な高校生であろう制服を着た4人組が美香の事を後ろから羽交い絞め手にして、口をふさぎ、公園の影の方に連れ去った。
『あぁ、これはまずい。助けに行かなきゃ。でも、助けられるかな?それより警察に連絡した方が?』
おろおろと迷いながらも場所を見失ってはいけないと、健斗は後をつけながらスマホで警察に電話をして、通話をそのままにして美香が連れていかれた方に向かった。
ようやく、口から手を外させた美香が言った。
「やめなさいよ、大勢でくれば何とかなると思ったの?」
そういうといきなり、一番体の大きい男子の腕を取り、フワリと投げ飛ばした。
次の男子も次の男子もいとも簡単に投げられていく。
「ちく・・しょ・・」
残りの一人はそういうなり、近くで唖然としてみていた健斗の首を後ろから絞めた。
「こいつがどうなってもいいのか?」
「誰よ、こいつ?」
「はぁ?お前の後についてきたぞ。」
「ごめんなさいごめんなさい。迷惑をかけるつもりじゃ。あんまり大勢だったから助けようかとも思ったけど、そんな暇もなくて逃げ遅れました。」
「ほう、お前男のくせにかわいいじゃないか。お前でもいいぞ。」
高校生は健斗の制服のシャツのボタンを外そうとする。
「い・・嫌ぁ・・」
まるで、女子のような声を出してもがくが、ほどけるはずもない。
その時!
健斗を抑えていた高校生が
『ギャッ』
と言って、健斗を離した。
そのすきを見逃さず、美香が健斗の手を取ってその場から離れようとした時、警官が到着した。
「電話を切らないでいてくれたから場所がわかったよ。お手柄お手柄。」
そういいながら、高校生たちを捕まえていく。
最後につかまった高校生は
「あいつ、凶器を持ってる。見てくれ。血が・・・」
と、腕から出た血を見せて警官に訴えている。
「僕、凶器なんて・・・?あ、もしかして。」
と、カバンから取り出したものは華道で使う剣山だった。
「ごめんなさい。部活がなかったので家で活けようかと思って。包んでたんですけど、抑えられた時にカバンを振ったから包みから出てしまったみたいで。」
と、正直に警官に言った。
「そもそもは高校生が悪いんだから、今回は見なかったことにしてあげるよ。今度からはもう少ししっかりしまっておいてね。」
そう言われ、警官が高校生たちを全員連れ去るのを眺めていると、ふと、右隣に暖かい温度を感じた。
右を見ると、健斗よりも頭一つ大きい美香が立っていた。
「ありがとう。助けてくれようとしたんだね。それも、ちゃんと警察にも連絡して。」
「あ、いえ、すみません。却ってご迷惑をおかけして。」
「そんなことない。嬉しかった。ねぇ。もしよかったらお礼にこのままうちに遊びに来たりしない?」
「え?そんな、もったいない。」
「はぁ?もったいないとは?なんじゃそりゃ。まぁいいからおいでよ。」
「はい。」
健斗は素直に美香の後ろからついて行った。
美香は自分とは正反対で、だけど、自分を見せつけるのではなくきちんと自分でできることをしようとして助けに来てくれた健斗の事を少し好きになっていた。
その日、健斗は美香の家の道場で歓迎の組み手を受け、ボロボロになった。
そして、翌日には美香が健斗の家に招かれて、足がしびれて立てなくなるまでお花を生けさせられた。
お互いの家の両親は、正反対のこの二人の出会いを何故か、最初から神様が決めたもののように、何も不思議に思わずにお付き合いを認めた。
それからは二人は一緒に登校して、それぞれの部活に出て、一緒に下校した。
健斗はだんだん逞しくなり、美香は華道を習ったことでより姿勢よく、でも、花を愛でるような気持ちも生まれてきた。
高校生になる頃には、健斗の身長も伸びて美香を抜かすまでになった。
性格は変わらなかったけれど、美香は男性らしさを誇示してこない健斗が好きだったし、健斗は男らしさを求めてこない美香が好きだった。
正反対の二人だけれど、ずっとずっと仲が良く、「破れ鍋に綴蓋」を地で行く夫婦になった。
得意な家事は得意な方がして、楽しく二人で暮らしている二人が、まるで正反対だったなんて、だれも、もう気付かないのだった。
【了】
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