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「おばちゃん、俺日替わりね」
「俺はA定」
注文をとりに来たパートの中年女性へ各々の注文を済ませると、何ともなしに会話が始まった。もっともヤツが喋りまくってこっちは相槌を打つ程度のものだったが。
「それよりお前、最近佳苗ちゃんとどうなん?」
「どうって、普通だよ」
佳苗は元々ウチの会社へ新人として入ってきた経緯があったので当然こいつも妻の事を知っている。何度か飲み会で話したこともあったようで、それなりに仲も良かった。
「いや、なんかお前の口から全く佳苗ちゃんの事出てこないからさ。少し心配でな」
「他人の家庭の話にあんまり口はさむもんじゃないぞ」
俺は運ばれてきたA定をほおばりながら少し不機嫌になった。
「そうは言ってもな。俺も佳苗ちゃんとは知らない仲じゃなし、寿退社して以来、何の音沙汰もないときたら心配もするだろ。確かもう二年だろ?結婚してから」
言われてみればもうそんなに経つのか、と箸を止めた。最初の一年は楽しく、色々お互いに興味を持って接していたが、今は互いの興味を無くしたかの様な生活を送っている。それが当然だと思っていた。
「で、どうなんだ?」
にやにやしている剛志。なんとなく何を聞きたいのか分かったが、当然そんなことは話すはずもなく、日常を何となく伝えた。話し終えると剛志は黙ったまま箸を置いた。カチャと少し音がなったので剛志の顔を見ると、絶句と表現するに相応しい表情をしていた。
「お前、それマジ?」
その声があまりに真剣だった為、俺も箸を置いて返事をした。
「あぁ、本当だ。普通だろ?」
「どこがだ!」
ドンとテーブルを叩く。
「それじゃ離婚寸前の終わった家庭じゃねーか。新婚さんが何やってんだよ!」
その勢いに俺は少し押され、押し黙った。実は普通とは思いつつも何か違和感を感じていたのである。他所の夫婦の話を聞くと、ウチとは違う回答が帰ってくることが多かったからである。実家の両親はウチと同じ空気だったので、他所は他所の精神で今まできたのだが。
「とにかく会話しろ。このままだと本当に家族として終わるぞ」
そういうと剛志は箸を持ち直して食事を再開した。俺は暫くそのまま手を動かさずに止まったままだった。
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