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新婚初夜ってこんなかんじなのだろうか。布団の上で正座をして、互いに向き合いながら、『それでは宜しくお願いします』と頭を下げるのだろうか。
交際ゼロ日で結婚した夫婦は緊張するだろうな。昔の人って大変だったのだなと思いながら寝室に入る。
(ああ、どうしよう。心臓が口から出そう)
貴富さんがベッドに腰かけ、隣に座るように促されたので、少し距離を開けながら隣に腰かける。
不自然に少しだけ開いた隙間を、貴富さんが腰を浮かして詰めてくる。どうしたらいいのかわからなくて、俯いたまま体を強張らせた。
貴富さんの手が私の頬に触れ、顔の横に垂れ流していた髪を耳にかけた。
目をぎゅっと瞑り、覚悟を決める。
「無理しなくてもいいよ」
貴富さんは寂しそうな声色で言った。
弾かれるように貴富さんの顔を見上げる。貴富さんは、私が嫌々ながら承諾したと思っているのだろうか。
親友のために自分を犠牲にして、貴富さんと結婚することを選んだと。
「無理とか嫌だとか、そういうわけじゃないのです」
どう伝えればいいのだろう。色々複雑な感情が絡まりすぎていて、自分でも自分の本当の気持ちが見えない。
緊張もある。大きな決断に臆病になっている気持ちもある。でも、それと同時に嬉しさもあるのだ。
もう二度とこの場所には来られないと思っていた。貴富さんと一緒になる未来なんてあり得るはずがないと思っていた。
奇跡のような出来事に信じられず戸惑い続けてもいる。
「私は……私はずっと……」
言葉にするのが怖い。伝えてしまったら、もう自分の気持ちを隠せなくなる。嘘を吐き続けることができなくなる。傷つかないように自分の気持ちを隠して、それでなんとか自分を保ってきた。でも伝えてしまったらそれもできなくなる。
「ずっと……?」
貴富さんは小首を傾げて、真っ直ぐに私の顔を見つめた。
(貴富さんは本当に私のことが好きなのだろうか。ずっと変わらず好きでい続けてくれるのだろうか)
不安で仕方がなかった。貴富さんに対する好きの気持ちが本物だからこそ、打ち明けてしまったら、元には戻れない気がした。
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