第七章 イケメン完璧社長の奇行

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 自分から突き放したくせに、離れてしまうと途端に寂しくなる。もっと一緒にいたいし、もっと社長に近づきたい。  これが恋人同士だったら、社長に抱きついてしばらくそのままじっとしていられるのに。スーツの裾を掴んだ指をそっと離す。 「はい」 「いい子だ。おやすみ」 「おやすみなさい」  社長の優しい眼差しに見守られながら、後ろ髪をひかれる思いで歩き出す。  途中何回か振り返ると、社長はその場に立ちながら私のことを見守っていた。家のドアを開け、中に入る前に小さく手を振ると、社長も手を振ってくれた。  ゆっくりとドアを閉めた。急激に寂しさが襲ってくる。ドアを小さく開け、外を覗き込むと、社長が帰っていく後ろ姿が見えた。  社長はもう、私を待つことはないだろう。会社でもずっと一緒に行動はしないだろうし、一定の距離を取られる。  それを望んでいたはずなのに、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
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