第一章 お見合い相手は自社の社長⁉

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「でも私、こんな格好だし……」  いきなり有紗から呼び出されたので、こんな展開になるとは思ってもみなかった。  体の良い断り文句を言ったはずが、有紗は待っていましたとばかりに、得意気な笑みを浮かべた。 「大丈夫、手配は済んでいるわ」  そして有紗に手を引っ張られて、ホテルのロビーから、更衣室へと案内された。 (え⁉ 私、一言も承諾するような言葉なんて言っていないのに!)  更衣室には立派な赤の振袖が置いてあり、ご丁寧に着付け担当の人まで待機している。  奥にはメイクルームもあって、準備は抜かりなく行われていた。  あれよ、あれよという間に振袖に着替えさせられ、有紗はそれをご満悦な顔で眺めている。 「ねえ! 私が嫌だって言ったらどうする気だったの⁉」  私の問いに、有紗は当然といった面持ちで返事をする。 「芳実ならやってくれると思ったわ」 (やられた)  お互いにお互いを知り尽くしている。こうなったら有紗は、私が嫌だと言っても断行するし、そもそも私は有紗の頼みを断れない。 (有紗のためなら仕方ないか)  私は渋々腹をくくることにした。  酷い恰好だった私は、プロの手によって自分でも驚くほどの変貌を遂げた。  仕事柄、化粧はほとんどしないので、化粧をするとここまで変わるものかとただただ驚くばかりだ。  私の支度中、部屋の外で待っていた有紗が戻って来ると、有紗も感心したように私の顔を眺めた。 「これは……、相手に一目惚れされたら厄介だわね」 「それはないでしょう」 「う~ん、まあここまできたらもうしょうがないわ。余計なことは喋らない。いい、わかった?」 「もちろん。黙々と懐石料理を食べて退散するわ」  実をいうと、お腹が背中にくっつきそうなくらい空腹だった。徹夜明けに有紗からの呼び出しがあったので、なにも食べていない。  更衣室を出ると、有紗の彼氏が落ち着かない様子で、扉の前を行ったり来たりしていた。  寝起きのような乱れた髪に度が強い眼鏡。皺のあるシャツに、大きすぎて緩んでいるズボン。なんだか親近感を覚える。私と似ているのだ。  有紗は昔からこういう地味で変わり者が大好きだ。サッカー部のエースとか、エリート会社員とか、優秀な集団に属しているような男は眼中にない。
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