第七章 イケメン完璧社長の奇行

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「体調が悪かった田中を気にかけてくれたのかな」 「社長は菩薩のような方ですから」 「というか、ちょっと変わっている」  変わっている? どういう意味だろうと思って聞こうとすると、主任が部長に呼ばれたので会話はそこで終わった。  若干心残りだったけれど、昨日できなかった分、しっかり仕事をしなければ!  クリーンウェアに着替えてクリーンルームへ入る。  室内の温度、湿度、室間差圧など空気清浄度を計測し、記入していく。日々のルーティンが終わったあと、自分の研究へと移る。  機器を使って計測実験を行っていると、気がついたら真後ろに社長が座っていた。 「え⁉ いつの間に!」  私が驚いて声を上げると、社長はなんでもないことのように目で笑いながら言った。 「気にせず続けて。俺はいないものだと思ってくれていいから」 (いや、それは無理でしょ)  やたらと近い距離で覗き込まれているので、緊張で心臓が早鐘を打つ。  社長に見られながら、必死に集中して仕事を続ける。正直、とてもやりづらい。  そして午前中ずっと社長は私の後ろに居続け、私が昼食休憩のために席を立つと、社長も一緒についてきた。 (なんだ、この状況) 社食を食べる私の前で、社長は微笑みながら同じく社食を食べている。  もちろん周りからは好奇の目で見られ、とんでもなく目立っている。 「社長も社食を食べるのですね。この前も食べていらっしゃいましたもんね、意外です」  ついてくるものを断るわけにもいかず、苦笑いしながら社長と話す。 「食べるよ。ここの社食はオーガニックにこだわって、社員が毎日健康に過ごせるように栄養にも味にも妥協せず作らせたから」 「そうなのですか。私の栄養源はほとんどが社食なので助かっています」 「それは良かった。昼だけではなく、朝と夜も利用できるように検討しよう」  社長はとても嬉しそうに言った。あっさりとんでもない構想を語る。 「でも、ありがたいですけど、経費がとてもかさみそうですね」 「田中さんの健康のためだ。多少の出費は必要経費だな」  私のため? いつの間にか私、社員代表みたいな扱いにされている。 「ところで社長、本部には戻らなくて大丈夫なのですか?」  私の問いに、社長はとても残念そうな表情を浮かべた。 「実は、午後からは戻らなければいけないのだ。午後も田中さんと一緒にいたかったのだが」
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