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これは好意を寄せられているのだろうか。それにしては行動が極端で行き過ぎている。
(これ、もしかしてずっと続くの?)
素直に嬉しいと思えなくなっている自分がいる。
そっとカーテンの隙間を開けて外を見ると、アパートの前の道路に社長がまだ立っていた。
(どういうこと? ずっと見守っている気?)
ここまでくると、ちょっと寒気がしてくる。意を決し外に出た。
「どうした? 買い物か?」
社長は悪気のない顔で私に話しかけた。私は口を真一文字に結び、早足で社長に詰め寄った。
「こういうのは困ります!」
私の勢いに圧倒された様子で、社長は困惑の表情を浮かべた。
「こういうのとは?」
「待っていられることです。朝も、夜も、ずっと私が出てくるのを待っていましたよね? それに、会社でもずっと私の側にいて。周りの目もありますし、そういうのは本当に困ります!」
少し怒った口調ではっきり物申すと、社長は驚いた顔をしたあと、気落ちして項垂れた。
「悪かった」
社長は小さく謝罪を述べると、そのまま踵を返して会社の方向へと歩いていった。
背中からは哀愁が漂い、『トボトボ』という言葉を具現化しているような歩き方だった。
(あれ、私、言い過ぎちゃったかな?)
あまりにも社長があっさり引き下がり、とても反省した様子で帰っていったので不安になる。
社長はそんなに悪いことをしたのだろうか。私が過剰反応しすぎだったのだろうか。いてもたってもいられなくて、社長の後ろ姿を追った。
「社長!」
走りながら社長の腕を掴むと、社長は驚いて止まった。
「あの、すみません、私、言い過ぎました」
息を荒げて申し訳なさそうな目で社長を見上げる私に、社長は優しく微笑んだ。
「謝ることはないよ。俺は大丈夫だから」
儚げに微笑む社長の顔は慈愛に満ちていた。大丈夫なんかじゃない、絶対傷つけた。
「でも……」
「夜も遅いし、早く帰った方がいい。本当はまた家まで送りたいが……気をつけて帰れよ」
社長は私の頭を優しく撫でた。
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