第九章 親友と好きな人が結婚することになりました。

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「だから、一つの案を考えた。驚かないで聞いてほしい」 「なんでしょうか?」 『俺と結婚しないか?』を唐突に切り出した社長が、ワンクッション置いてくるなんて。どんな案なのか緊張が走る。でも、『結婚しないか?』以上のインパクトはさすがにないと思う。あれこそ、ワンクッション置いてほしかった。 「子どもを作ろう」  社長の言葉に絶句して、頭が真っ白になった。 まさかの『結婚しないか?』を上回る衝撃だ。 「え、あの、え、正気ですか?」  思わず聞いてしまった。『本気ですか?』の方が言葉としては柔らかいしこの場では適切だったかもしれないけれど、あまりにも突飛なことを言い出すものだから。 「もちろん正気だし、真面目に言っている。子どもができたと言えば、さすがに両親も反対することはできないし、東雲家に泥を塗る行為になるわけだから、結婚が白紙になったとしても融資するのは当然だ。全てが穏便に上手く収まる方法はこれしかないと思う」  社長は真剣な眼差しで力強く持論を述べた。 (いやいや、いやいやいや、いやいやいやいや……)  言葉が出てこない。 (子どもを作る?)  色々とすっ飛ばしすぎて、感情が整理できない。 (子ども? 社長と?)  確かに社長とはすでに一夜を共に過ごしている。  社長と結婚するには、既成事実が必要だ。それには子どもというのは大きな武器になる。  でも、結婚するために子どもを作るって、子どもを利用しているようで罪悪感がある。  けれど、有紗のことを考えるならば、そんなことも言っていられない。  私と社長には越えられない身分差がある。その身分差を実力行使で飛び越えようとするならば、子どもを作るというのは現実的な案かもしれない。 (いや、でも、社長と子どもをつくるって)  想像しただけで顔が赤くなる。 (そんな、いきなり、しかも社長と結婚って)  付き合ってもいないのに、いきなり結婚。さらには子作り。もう頭の中が混乱して錯乱状態だ。 「俺は田中さんと結婚したいし、ゆくゆくは子どもも欲しいと思っていた。問題はただ一つ、田中さんの気持ちだ。田中さんは俺のことをどう思っている?」 「どうって、それは、その……」
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