第九章 親友と好きな人が結婚することになりました。

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(昔からの憧れの存在です。なんなら、会社も社長に会いたくて死ぬほど努力して入社しました)  なんて、言えるわけがない。  重い、重すぎる。唖然とする社長の顔が目に浮かぶようだ。 「嫌いか?」 「まさか!」  即座に否定する。嫌いどころか大好きです、と言ってしまいそうになるのを、必死で押しとどめる。 「良かった」  社長は心からの安堵の声を漏らし、下を向きながら微笑んだ。 (というか別に、私が社長のことを好きなことを隠す必要ってあるのかな?)  ふと芽生えた疑問。社長は私のことを好きだと言ってくれている。  ただ、その言葉を素直に信じられない自分もいる。だって、社長が私を好き?  私のどこに社長が好きになる要素があるというのだ。私だってそこまで馬鹿じゃない。美味しい話には裏がある、世の中そんなに甘くないということぐらいは知っている。 「嫌いじゃないなら、ゆっくり考えてみてほしい、と言いたいところだが、いかんせん時間がない。俺じゃ駄目?」  魅惑的で色気たっぷりの目で詰められる。 「駄目とか、駄目じゃないとかそういう問題じゃなくて……」  社長は麗しい顔で私の目を見つめて言葉の続きを待っている。待たせているのに申し訳ないけれど、続く言葉が見つからない。この気持ちを言語化するのが難しい。 「もしかして、付き合っている人や他に好きな人がいるのか?」 「いません!」  これまた即座に否定する。社長に誤解はされたくない。そう思うなら、戸惑っていないで受け入れてしまえばいいじゃないかと思ってくる。 (なにが問題?)  自分に問いかけて、冷静に考えてみたら問題点ばかりだった。御曹司である社長と一般庶民の私が結婚できたとして、平穏な結婚生活が送れるのか?  子どもができたとして、どんな外圧が待っているかわからないのに、私に子どもを育てあげることができるのか? もしも社長が心変わりしたら? 今は物珍しさなのかわからないけれど、社長の気持ちが変わらないという保証はない。そんなこと言ったら、誰と結婚しようとも相手の心変わりや環境の変化なんて避けては通れない課題なのだから、保証なんてどこにもない。  そんなこと考えていたら結婚なんてできないのかもしれない。でも、私はそんなことを考えてしまうタイプの人間だ。
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