第九章 親友と好きな人が結婚することになりました。

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「俺は、成功するかしないかで物事を判断しない。失敗しても諦めなければいいのだ。そうすれば失敗にはならない」  社長は婉然と微笑み、さらに言葉を続けた。 「この会社だっていつ事業が傾くかわからない。それは他の事業についても同じことだ。いい時もあれば悪い時もある。でもそれを乗り越えればいいのだ」  力強い言葉に胸が震える。そんな風に考えたことなんてなかった。失敗するくらいなら、やらない方が安全だと思っていた。 「成功ってなんだろうな。俺は他者から見れば全てを手に入れているように見えるらしいですが、俺の中ではまだまだ夢の途中だ。この会社だって経営が上向きになって利益が出せるようになったが、俺が目指していたのは利益じゃない。より多くの人々の命を救う薬を開発することが俺の夢だ。だから俺にとっては、まだ成功とはいえない。でも諦めてはいない。俺の人生を懸けてやり遂げる価値が、この会社にあると思った」  初めて社長に会った時のことを思い出した。社長の講義を聞いて、この人の元で働きたいと思った。私もその夢に関わりたいと思ったのだ。  全身から漲る自信。多くのものを背負いながらも、さらに上を目指して突き進む豪胆さ。 (懸けてみようかな、この人に)  リスクは大きい。でも、懸けるだけの価値がこの人にはある。  そして上手くいかなかったとしても、自分で責任を負おう。社長を恨むのではなく。自分で決めたことだから。  大きく深呼吸をして、覚悟を決めた。 「私、あなたの子どもを産みます」  
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