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第十章 ミッション、子作り。
善は急げと言わんばかりに、引っ越しは突如行われた。
社長が手配すると、引っ越し業者が我が家にやってきて、全ての梱包を手際良く終わらせてくれた。
なにが必要でなにが必要でないかはわからないので、とりあえず持っていって、いらないものはあとで処分することになったので、がらんどうになった部屋を見ると急に現実感が押し寄せてきた。
そのまますぐに社長の家に行き、先ほど梱包された私の荷物が運び込まれる。
梱包作業とは打って変わって、開封作業は忙しかった。なにをどこに仕舞うのか指示しなければいけないからだ。
引っ越し業者だけでなく、収納アドバイザーの方や片付け専門のプロまで来たので、とりあえずプロに一任することにした。
あれよ、あれよという間に片付いていき、夕方になる頃には普通に住める状態になっていた。
みんながいなくなり、社長と二人きりになったところで、安堵感と共に不安が押し寄せてきた。
「あの、今言うことじゃないとは思うのですが、同棲する必要ってあります?」
なぜか当然の流れでこんなことになってしまって、様々な人が頑張って作業をしてくれている中、ずっと言い出せずにいたことを思いきって聞いてみた。
もちろん、今さら同棲解消しようと思っているわけではない。ただ、ここまでする必要ってあるのかなっていう。しかも、今日のうちに。
「もちろんだ。我々には時間がないし、なによりセキュリティの甘いあのアパートで一人暮らしさせるわけにはいかない」
社長は至極当然といった面持ちで言い放った。自身の決断に一切の迷いがない。考えが合理的で即断即決すぎる。悩むということはないのだろうか。
社長の家は一人暮らしにしては広いとはいっても、寝室は一つしかない。
私の衣服類はとりあえず社長の仕事室兼書斎に入れたけれど、そこには私が使っていたベッドまで入らなかったのでそれは処分することになった。
つまり、今夜から私は、社長と同じベッドで寝るということだ。
『私、あなたの子どもを産みます』
なんて大それたことを言っておきながら、緊張で足が震える。
私はとんでもない決断をしてしまったということを今さらながら実感する。
疲れたので、ウーバーイーツでお蕎麦を注文して家で食べることになった。
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