第十章 ミッション、子作り。

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 引っ越し蕎麦を二人で啜る。なんだか新婚みたいだ。 「田中さんと一緒にこれから生活を共にできるなんて夢のようだな」  社長はとても幸せそうな顔をして満足気に言った。心の底からそう思っている様子が伝わってきたので、社長の好みって変わっているのだなと思った。 「ああ、そうだ。もう、田中さんって呼ぶのもおかしいな。芳美でいいか?」  社長はやけに饒舌だった。  たしかに私も社長と呼ぶのはおかしい。でも、今まで社長と田中さんで呼び合っていたような関係なのに、いきなり同棲とは、色々なものを吹っ飛ばしている気がする。 「私はなんて呼べばいいでしょうか? 貴富さん?」 「貴富でいいよ」  社長は目尻を下げて優しい笑顔を見せた。もう全身から幸せオーラが溢れ出ている上に色気まで漏れている。 「まだ呼びにくいので、貴富さんって呼ばせてください」 「芳美の好きな呼び方でいいよ」  下の名前で呼ばれると、なぜか子宮が疼く。  貴富さんが、とても愛おしそうに私を見つめるので、気恥ずかしくもなる。  お風呂にも入り、刻一刻と迫ってくる就寝時間。  急遽同棲することになった理由でもあり、私たちが結婚するためには欠かすことのできない条件。  つまり、これはミッションだ。有紗のご両親の会社の存続にも関わってくる。 (落ち着け、落ち着け……)  なにも初めてというわけではない。大丈夫、きっと貴富さんがどうにかしてくれる。  それにしても、ここ数日の落差が激しすぎる。  もう二度と貴富さんとは会えないのだと思っていたのに、会社で頻繁に会うようになって、親友と結婚してしまうと胸が焼けるほど苦しくなったところからの、授かり婚計画。  ジェットコースターみたいに感情の起伏が激しくて、なおかつ環境までも大きく変わった。  平穏な毎日を捨てて、波乱万丈な人生のスタートだ。 「そろそろ、寝室に行かないか?」 (きた!)  お風呂上りの貴富さんは、流れるような前髪がいつもよりも幼く見える。  顔立ちが陶器のように整っていて、身長も高く適度に筋肉もついている。 「はい……」  顔を赤く染めながら、しずしずと貴富さんの後ろについていく。
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