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プロローグ
「おい! また子供が消えたってよ」
「なんだって? まさか岩窟迷宮に入ったんじゃないだろうな」
「この子たちが見たってよ」
「ああ可哀想に。怪物の餌食じゃないか」
「岩窟迷宮の鉄扉が開いていたらしいぞ」
「血を求めた魔女の仕業ね!」
「いったい何処の子だい」
「どうやら家無しらしい」
「なんだよ騒ぐことないじゃないか」
「ああ恐ろしい。うちの子じゃなくてよかったわ」
国境となる岩山には幾つもの岩窟迷宮があった。それは人間がアルタンティスに攻め入る為に造った遺物。複雑に入り組んだ岩窟は、今では出口があるかさえも分からず鉄扉によって硬く封じられていた。
そこは全ての人間がひとつになった国境なき世界。ただ唯一その世界に与しない国があった。その名をアルタンティス。隆起した岩山の壁に囲まれた国土の中央に城を有し、城下には街も国民もなく、ただ豊かな自然が広がるアルタンティス。その美しさゆえに領土に踏み入った者は、目にしたものに後悔し自分の最後を悟っただろう。アルタンティスは異形のものが生きる世界だった。
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