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「おい家無し! あのボール取って来いよ。取ってきたら犬の餌を分けてやるぜ」
三人組のリーダーらしき男子が、投げ込んだボールを指さした。ボールは街から転げだし、広大な樹林の手前まで転がった。そこはまだ人が開拓していない大地。街に住む者ならば、近づこうとしない場所だ。
男子たちも家無しと呼ばれた少女スピカも、それは物心ついた時から知っている常識だった。時折、樹林に入ってゆく兵隊を見ても、戻って来た姿を見たことがなかった。
スピカは黙ってボールに向かって行った。内心は怖くてしかたがなかったが、男子たちが自分の怖がったり嫌がるのを見たがっている事を分かっているスピカは、必死で足を運んで樹林へと踏み入った。
「お、おい……」
「馬鹿が、ほっとけよ」
「い、行こうぜ」
見ていた男子たちは気が気ではなかった。ただ困らせたいだけだったのに、自分たちのせいで樹林に入り何かあったら街中で大問題になってしまう。一人が背を向けると、我先にとその場を後にした。
ボールに手を伸ばしたスピカは、男子たちが居なくなったことに気づかずにいた。それは先にある茂みの中に気配を感じたからだった。
スピカは指先がボールに触れる寸前の姿勢で茂みに目を凝らした。葉っぱの間から目が覘いた。スピカがビクリと体を震わせると、それは姿を現した。
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