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茂みから姿を現したのは子犬のようだった。一瞬安心したスピカに、再び緊張が走った。
完全に茂みから出てきた姿は子犬のようだが、爪を隠した猫のような足。背中には飛べそうもないが小さな翼が付いていた。三本のしっぽをユラユラと揺らし、鼻をヒクつかせ近づいてくる異形のものの舌先はふたつに割れていた。
スピカは、ゆっくりと手に取ったボールをそれに向けて転がした。するとそれはボールを咥えて、飛び跳ねるように茂みの中へ消えていった。
「こら! なにやってる!」
「うわっ」
後ろから急に声をかけられて、吐く息と一緒に大声が出た。それでスピカは自分が息を止めていたことに気が付いた。
「怪物に喰われるぞ、早く戻って来い!」
さっきのが怪物なんだろうかと思いながらスピカが戻ると、声をかけてきた大人が怪訝な顔をして距離をとった。
「お前、見慣れないな。本当に人か? え? なんだ家無しか。食べ物を探しに行くのは勝手だが、こっちに持ち込むんじゃないぞ。いいな」
スピカが家無しだと分かった大人は、興味なさげに言って去って行った。
食べ物の話をされて腹が鳴った。今夜はどこのゴミを漁ろうかと思ったとき、後ろの茂みがカサリと鳴った。慌てて振り向くと、茂みの手前に白い物が転がっていた。一瞬ボールかと思ったが、それは真っ白なリンゴのような果実だった。
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