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スピカは誰にも見つからないように、真っ白な果実を持って棲家に帰った。果実は持った手に付くほど甘い香りがして、それだけで空腹が和らぎ幸せな気持ちになった。食べるのを勿体なく思ったスピカは、それを抱きしめるようにして寝床についた。
棲家の周りには光源などないのに、閉じた瞼に光を感じてスピカは目が覚めた。咄嗟に危険を感じたスピカは、その光の正体に悟られないよう、ゆっくりと目を開けた。そして見開いた。
「スピカ」
光に縁どられ宙に浮いている人影が語りかけてきた。スピカは声を出すことも、動くこともできずに様子を伺った。
「恐れなくても良い。私はバビロン。賢く、そして優しく強いスピカ。そなたの願いを叶えに来た」
「わたしの……願い?」
「そう。そなたがずっと胸に秘めている願いを」
「幼い夢のこと? バカバカしい。魔法の馬車で王子様にでも会わせてくれるの?」
スピカは誰かの悪戯かもしれないと周りに視線を走らせた。しかし人が居そうな気配はなかった。そもそも下水路を通ってまで来る人などいるはずがなかった。
「一度も口にしたことのない、その願いを私は叶えてあげられる」
「どうして、そんなことをするの?」
「そうすれば、皆が救われる」
スピカは上体を起こすとバビロンを見上げた。
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