謎切れ

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謎切れ

 気分が悪過ぎて吐き気をこらえるのに精一杯で、帰りの車の中ではずっと無言だった。  帰宅してから彼に問い(ただ)すと、「お父さんが『北白川さんに仲人をお願いしなさい』って言ったからお願いしただけだ! 俺は悪くない!」と謎のブチ切れ。略して謎切れ。 「私たちは『挙式披露宴ナシ』なのに、仲人なんか頼んでどうするの?」 「お父さんが『仲人』って言うんだから、挙式披露宴()()()()()()()()だろ! 仲人のいない結婚式なんて滑稽だ!」と()()()勝手に挙式披露宴すると決めている。私は『挙式披露宴ナシ』を条件に結婚に応じたのだが?  しかも、だ。当時から仲人をたてる結婚式は十組に一組と、むしろ仲人をたてる事のほうが珍しかったのだ。その事実も知らないくせに、彼はまったく勝手な思い込みだけで「仲人のいない結婚式なんて滑稽だ!」などと日本中の九割のカップルを侮辱し、敵に回すような暴言を吐いた。何も知らないくせに、上から目線でまるっきり頓珍漢な叱責をしているのだ。何重にも間違っている。 「当初の約束通り、挙式披露宴ナシでなければ結婚しない」と言い渡し、後日改めて彼の両親に「実は事前の話し合いで『挙式披露宴ナシで婚姻届を提出するだけ』と決まってたんです……」と間抜けな報告をするはめに。そして彼の両親に婚姻届の保証人欄に署名捺印してもらい、婚姻届を提出した。  これで私・芙蓉(ふよう)と彼・桜井学は法的に正式な夫婦となった。私は専門学校卒で二十歳の新人デパートガール。本店のインフォメーションカウンターで働いていて、本社での内勤を希望していた。夫は大卒で二十三歳の営業マン。中堅不動産会社に入社二年目で、今年こそ宅建の資格を取るのが夢だった。  当初の約束どおり婚姻届の提出だけで結婚したので『やっとこれですべてが済んだ』と思ったら、信じられない展開が待っていたのである。
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