27人が本棚に入れています
本棚に追加
道は空いていた。ガラガラだった。彼が道を間違えて、全然違う山を越えたのだ。
自分の非を認めず、大嘘をついてごまかそうとする。夫の悪癖だ。幼少期から嘘を習わしにしていたのだろう。
大人になってから突然、大嘘つきになってしまったとは到底考えられない。
低知能ほど嘘をつく。高知能は成長する過程で嘘をつくリスクを学習できるから、あまり嘘をつかなくなる。
だが低知能は学習能力が低いために嘘をつくリスクを学習できず、大人になっても嘘をつき続けるのだ。
「今? 今は山辺町です。山辺町からだったらどれくらいかかりますか? ……え、三時間? すいません! 急いで行きます」
私は穏やかに質問してみた。
「『海辺町は山越えしたらすぐだ』って言ってたわよね? なんであと三時間もかかるの?」
「あれ~? おかしいなぁ」
卑怯にも彼は都合の悪い質問には答えず不思議がるばかり。
「ここを見て」
私は地図を見せて指を指す。
最初のコメントを投稿しよう!