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彼は私の言葉を無視する。格下認定している私には、素直に従いたくないからだ。
「くだらない意地張ってたって辿り着けなきゃしょうがないでしょ? 遅くなったら旅館の人に迷惑がかかるから。次を左」
彼がようやく私のナビに従ったので旅館に辿り着けたが、時刻はもう十時。
旅館スタッフにお詫びを言ってあたふたと夕食。
本来は一、二時間かけて食べるはずのご馳走を味わうこともなく、ほとんど嚙まずに次々に呑み下して胃袋に納めた。
一刻も早く食べ終えなければ、旅館スタッフにご迷惑だからだ。会話している暇も、ゆっくり味わう暇もなかった。
大浴場の入浴時間は過ぎてしまって入れず終い。惨めな気持ちで寝床に入ったが、満腹で大満足した彼はすぐにのうのうと高イビキ。
私や旅館のスタッフにどんなに迷惑をかけても平気の平左なのだ。恐るべき無責任さである。
私はこんな夫が情けなくて恥ずかしくて惨めで、とうとう一睡もできなかった。
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