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もっと酷いことに、私は誓いのキスもしてもらえなかったのだ。夫は私のウェディングベールを上げて私と目が合うと、金縛りにあったようにガチーン!と固まってしまった。
誓って言うが、私はメデューサではない。メデューサとはギリシャ神話に登場する、髪の毛が蛇で見た者を石に変えてしまう怪物だ。
夫は極度の緊張状態に陥ってしまい、私の顔をいつまでも馬鹿みたいにみつめたままなのだ。夫の瞳孔は散大し、爛々と光っている。緊張と同時に極度の興奮状態にも陥っているようだ。
結局、夫はいつまでも固まったままで誓いのキスをしないので、聖職者はとうとう見切りをつけ、次の式次第に進んでしまった。
♢
「本番では絶対ビシッと決めてやるからな!」
結婚式の予行演習後、夫が私に言い放った負け惜しみは、ただのハッタリに過ぎなかったのだ。負け犬は、本番でもやっぱり負け犬だったのだから。
人の少ない予行演習のときですら誓いのキスができなかったのだから、より人の多い当日にできるわけがない。私は夫によって哀れな花嫁にされてしまったのである。
指輪の交換もしない、誓いのキスもしない、そんな結婚式ならわざわざ挙げる必要などなかったのだ。
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