結婚式

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 こうして私は夫のせいで、世にもみじめで哀れな花嫁にされてしまった。大恥をかかされて怒り心頭の私が笑顔になれるはずもなく、式直後の写真撮影は難航した。だが集合写真のために待ってくれている列席者たちに迷惑をかけるわけにはいかない。  とは言え夫を殴りつけて怒鳴りつけてやりたいのを必死の必死でこらえているという状況なのだから、作り笑いをしてもまったく笑顔になっていないらしく、カメラマンはいつまでたってもシャッターを切ってくれない。作り笑いを続けるのがつらくてつらくて、顔の筋肉が痛くて痛くて拷問だった。  それでも私は必死の必死で無理矢理作り笑いを続け、カメラマンもあきらめたのか、ようやくシャッターを切ってくれた。やれやれ……。やっとこれで、待たせている列席者たちと集合写真が撮れる。 「では、集合写真はどうなさいますか?」  カメラマンが尋ねる。もちろん打ち合わせどおり……。すると夫は手のひらをカメラマンの顔面に向かってビシッと突き出し、 「いえ、結構です」  と、()()()きっぱり断ってしまった。  ハァ……?「せっかく来てくれるのだから、列席者全員との集合写真を撮っておこう」と二人で合意に至り、予行演習(リハーサル)の日にカメラマンとも打ち合わせをして依頼しておいたのに。そして式直前にも、「打ち合わせどおり集合写真を撮ってもらう」と再度念押しして、夫はそれを「カメラマンと姑にも言っておく」と約束したのに、夫は私に一言の相談もなく一瞬にして約束を破った。  つまり夫は、最初から守る気のない約束をして私を騙し、自分の欲望を満たすと一方的に約束を破ったのだ。酷い裏切り行為である。『結婚式を挙げたい』という私利私欲を満たすために偽りの約束で私を騙し、自分の欲望さえ満たしてしまえばもうそんな約束にはなんの用もないというわけだ。  そもそも私は『結婚式を挙げない』という条件で結婚に応じたのに、入籍すると夫が「やっぱり結婚式を挙げたい」とわがままを言い出した。仕方なく応じてやったのに、夫は指輪交換の練習に一度も応じなかった。そのため夫は本番で大失敗して私に大恥をかかせた。  夫は結婚式直前に「集合写真を撮る」と偽りの約束で私を騙して結婚式を挙げ、式が済んだら即座にその約束を破った。恐るべき不誠実さの塊である。言葉を失うほどの無責任さだ。  撮影後に支払うカメラマンへの写真撮影代も全額私の負担で、すでに耳をそろえて封筒に入れて渡すだけとなっている。集合写真を夫が当日勝手にキャンセルしたからと言って、その写真代を引いて渡すなどという恥知らずで卑怯で非常識な真似はできない。  当初の契約通り支払うのがまともな人間のすることだ。当日キャンセルした分の写真の代金は、キャンセル料として支払うのが当然だろう。それが常識、社会人としてのマナー、暗黙の了解だ。  こうして夫が私に無断でキャンセルした写真撮影代も、私が全額負担させられたのである。
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