「試練」

1/5
前へ
/10ページ
次へ

「試練」

「アッロマーヌ国の“ウィード”だって?」  ヒロキは(しら)けた顔付きで顎杖(あごづえ)をつき、遊牧民(ゆうぼくみん)仲間の青年を見た。 「ああ。戦闘(せんとう)部隊(ぶたい)のな。  ミドルかベース、どっちかの階級(かいきゅう)所属(しょぞく)する戦闘士(せんとうし)のことさ」  二人は広原(こうげん)で向かい合い、()べたにあぐらを組んで座り、巻きタバコを(くゆ)らせている。 「そんくれえ知ってるよ。  ドリンガデス国の“シェード”と(なら)んで有名だからな。  けどよ。シェードと違ってウィードってのは、まともじゃねえヤベえ連中だったよな」 「特にヤベえのはウォッカード隊長(ひき)いる(ちょう)攻撃(こうげき)(がた)のミドル部隊なんだけどよ。  最近そのミドル部隊に、桁外(けたはず)れのイカれ野郎が入隊(にゅうたい)したらしいんだよ」 「イカれ野郎?  ハハッ。おめえこそイカれた(つら)して深刻(しんこく)に語ってんじゃねえよ」 「からかうなよ、ヒロキ。  とにかくそいつの度胸(どきょう)半端(はんぱ)ねえんだ。  暗黒街(あんこくがい)(ぎゅう)()るギャング集団にたった一人で(もぐ)り込んでよ。  組織(そしき)壊滅(かいめつ)立役者(たてやくしゃ)になったって話なんだ」 「なるほどなぁ。本格(ほんかく)的にイカれてやがる」 「もちろん裏で手引(てび)きしたのも最終的にアジトへ乗り込んだのも隊長だったそうだけどよ。  新人がギャングの潜入(せんにゅう)捜査(そうさ)抜擢(ばってき)されるなんざ前代(ぜんだい)未聞(みもん)だろ。  よっぽど(きも)()わってねえと()たせねえよな。  どうやらそれがそいつのデビュー戦だったようだぜ?」 「へぇ~ そりゃ華々(はなばな)しいデビューだな。  けどよ。新参者(しんざんもの)を抜擢した隊長の方が正真(しょうしん)正銘(しょうめい)異常(いじょう)者なんじゃねえの?」 「バカッ! めったなこと口にするもんじゃねえよっ」  青年は、あせあせと周りを見回しつつヒロキをたしなめる。 「こんな広原のド真ん中で、他に聞いてる奴なんかいやしねーよ。」 「そりゃそうだが……  アッロマーヌのウィードを甘くみちゃいけねえ。奴らはどこにひそんでるか分かりゃしねんだ」 「んなこたぁ、どーでもいいからよ。  イカれ新人野郎がどうしたんだよ。さっさと続けやがれ」  ヒロキは、作りたての魔山羊(まやぎ)乳酒(にゅうしゅ)が入ったボトルを手に取り、青年に差し出した。 「ヘヘッ、サンキュな。そーそー、そのイかれ野郎だ。  俺もこないだ初めて、知り合いにコッソリ教えてもらったんだけどな……  なんでもそいつは、人間と魔族の混血(ブレンド)だって(うわさ)なんだ。  な? ヒロキ。いくら無頓着(むとんちゃく)なお前でも、おんなじブレンドの武勇伝(ぶゆうでん)ならちっとくらいは関心(かんしん)もてるだろう?」 「ブレンドねぇ。  よくブレンドが戦闘士になれたもんだなぁ」  何事にも深い関心を(しめ)さないヒロキだが、この内容には少し興味(きょうみ)がわいた。 「まずは隊長に弟子(でし)()りしたみたいだぜ?  つっても、俺たちには想像もつかねえ苛酷(かこく)な道のりだっただろうがな」 「そりゃご苦労なこったな」 「そういやぁ、もうすぐそいつの誕生日で、歓迎(かんげい)会を()ねたバースデーパーティーやるんだってよ。  きっと俺たちが体験したことねーような暴威(ぼうい)をふるって、ド派手(ハデ)乱闘(らんとう)パーティーにするんだろうな」 「へぇ~ (しん)()りってのも大変だな」 「おっと、いけねえ。もう行かねーと。食堂のおばちゃんとバーターの約束してんの忘れてたよ」  青年は、魔山羊乳酒のボトルをバッグの中に()っ込み、タバコを鉄皿(てつざら)に置くと急いで魔馬(まば)の背にまたがった。 「いいパスタが手に入ったら分けてやるからな」 「俺はパンとミルクと肉があれば十分(じゅうぶん)だよ」 「ま、そう言うなって! じゃあな、ヒロキ!」 「ああ、またな」  ヒロキは適当に青年を見送った後、組み立て式住居のテントに目をやった。 「聞いてたか? 焙義(ばいぎ)クンよぉ」  ヒロキがそう呼びかけると、テントの中からブレンド仲間の兄貴(あにき)(ぶん)、焙義が出て来た。  焙義は脇に、愛刀(あいとう)深中浅(しんちゅうせん)」を(はさ)んでいる。 「桁外れのイカれ野郎か……  俺の弟にふさわしい言われようだな」 「煎路(せんじ)の奴、まさか戦闘士にまでなってやがるとはなぁ」 「俺たちも負けちゃいられないぜ、ヒロキ。  モンジさんに相当(そうとう)(きた)えられ(つえ)えの相手に実戦(じっせん)(かさ)ねてきたんだ。  こっからは世の中の役に立っていかねえとな」  焙義はおもむろに(かたな)(さや)から抜いた。  抜くや(いな)や、刀の()(さき)に太陽の光が当たり、反射(はんしゃ)(こう)眉間(みけん)直撃(ちょくげき)した。  まぶしくて思わず目を閉じた後、うっすらと目を開け、焙義は広原のはるか先にある地平線(ちへいせん)をぼんやりと(なが)めた。 「誕生日か……  あれから十年。煎路(アイツ)ももうじき226歳になるんだな……」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加