第14話 思わぬ助太刀

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第14話 思わぬ助太刀

 キン! と剣のぶつかる高い音が響いた。  蝋燭の灯りを背に、誰かが賊の攻撃をまともに受けている。  誰だあれは……サーモンピンクのドレス……金色の髪……。  俺は頭がおかしくなったのか?それとも幻覚を見ているのか?  いや、これは現実だ。  オーレリアがザイラスと賊の間に立ちはだかって、剣を構えていた。  見事な立ち姿だ。  そのままじりじりと間合いを詰めてゆく。  あまりの不意打ちに何が起こったのか理解できない賊が、ヤケクソで襲いかかってきた。  表情一つ変えず賊の攻撃をかわしたオーレリアが、鳩尾に剣の柄で一撃を食らわせた。 「ぐはっ……」  滑るような足取りで床に座り込んだ賊に近寄り、ゆっくりと剣を振り上げる。 「ひ、ひい、ああー、やめろおー……」  振り上げた剣が賊の喉に突き刺さろうというまさにその瞬間、ザイラスがオーレリアの腕を掴んで正気に戻らせた。 「!!」 「貴女が手を汚す必要はない」  オーレリアを落ち着かせるように、小さく首を振ってみせる。  ふっとマリーアの腕から力が抜け、剣を下ろし、緊張がとけたように溜息をつく。 「旦那!」  ニコロが裏口から駆け込んできた。 「ニコロ、しくじりやがったなお前」 「すみません、見張りの男を捕らえようとしたんですが、屋敷に逃げ込まれちまいました」 「まあいいさ。お前の見立ては正しかったよ。こいつらを縛り上げろ」  失神している男、足を骨折している男、そして床に座り込んだまま錯乱状態の男。  3人を完全に拘束してから、ザイラスは賊の前にしゃがみ込んだ。 「さて、答えてもらおう。目的は何だ? 誰に頼まれた? 金か? それとも怨恨か?」 「し、知らねえ。俺たちは何も知らねえ」 「ぁあ? 声が小さい。聞こえんな」 「本当に知らねえんだ。頼む、助けてくれ」 「ニコロ、この部屋暗いな。燭台を持って来てくれ」 「はいよ」  ニコロから渡された燭台をゆっくりと賊の顔の前に持って行く。 「何をするつもり……ひっ! あちいよ! 止めろお……ヒイイイ……」  そもそもザイラスは部屋が暗いなどと微塵も思っていない。  蝋燭の火を、賊の髪が焦げるほどの距離に近づけたのだ。 「どうした、この部屋は暗いし今日は寒いだろう。ほら遠慮せずもっと火のそばに来い」  そう言ってニヤリと笑う。 「……ヒッ……!」  揺らめく炎に照らされたザイラスの表情は、まさに悪魔そのものだ。 「ううう……許してください。本当に何も知らないんです。俺たちお互いに名前も知らないんだ」 「本当です……酒場で飲んでたら知らない男に、運河の畔の屋敷にいる奴らを襲ってくれって金を握らされて……」 「そそ、そうです。死なない程度に痛い目に遭わせてくれればいいからって……ひい……」 「頼んできたのはどんな男だ?」 「これといって特徴のない、小柄な……商人風の」 「ニコロ、どう思う?」 「嘘は言ってないみたいですね。これ以上の情報は難しいんじゃないでしょうか」 「……使えねえ奴らだ」  チッと舌打ちして立ち上がる。 「まあいい、物盗りということにしておいてやろう。明日の朝警察に引き渡してやる。ただしいいか、余計なことを言ったら一生地下牢から出られないから覚悟しておけ」 「たすけてえ……助けてくれえ……」 「やかましい。もう一度言う。お前たちは故郷へ帰る途中で路銀が尽きて、この屋敷に盗みに入ったんだ。分かるな? んん? 返事は?」  ザイラス、怖い。 「ヒイイイ……分かった、分かりましたあ……」 「そうそう」  思い出したようにニヤリと笑みを浮かべて続ける。 「この領地の刑務所の地下牢にはネズミが沢山いるんだよ」 「……ネズミ? それが何か……?」 「そいつらはネズミの癖に赤ん坊の頭ぐらい大きくてな……肉が大好きなんだよ。活きのいい生肉が、な」 「!!」 「まあ地下牢に入れられないようにせいぜい気をつけろ」  ザイラス、怖すぎる。  一気に顔が青ざめた賊にギロリと一瞥をくれると、踵を返してニコロに命じた。 「明日の朝まで納屋に繋いどけ」 「お任せ下さい」
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