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<第一章>第1話 出会い
まだ冬の始まりとも言える頃なのに、その年の領都にはすでに雪が膝のあたりまで積もっていた。
夕暮れ時、ザイラスは愛馬に跨り、従者ニコロと二頭の愛犬を引き連れ、都の端にある城壁を見回っていた。
周囲はすっかり暗くなり、雪も強くなっている。人影は全くない。
「思ったより補修が必要な個所が多かったな。雪が深くなる前に手配せねば」
「また金が要りますね。それはそうと旦那様、そろそろ屋敷に戻りましょう。このぶんだと吹雪が来そうです」
「そうだな。急ごう」
ザイラスが踵を返しかけたその時、愛犬マックスが闇に向かって激しく吠え始めた。
「どうしたマックス、何かあるのか?もう帰るぞ」
だがマックスは一向に静まらず、それどころかジルまでも同じ方向にザイラスを連れていこうと力の限り外套の裾を引っ張り始めたのだ。
「ああわかったわかった、そう引っ張るなお前達」
「……ん?」
真っ白な雪の上に、真っ赤な鮮血が点々と落ちていた。
「これは……!!」
急いで馬を降り、マックスとサラの後を追う。
樫の木の下に、黒っぽい塊があった。
ニコロのカンテラの明かりで視界が開ける。
塊……いや違う、雪に半分埋もれた……人?
その周りの雪が真っ赤に染まっている。
「おい! どうした! 大丈夫か! しっかりしろ!」
ザイラスはその人影に駆け寄り、肩を掴んで抱きおこした。
薄汚れた……少年だろうか。
顔も唇も土気色になり、完全に気を失っている。
そしてザイラスは自らの左手に、ぬるりと生暖かいものを感じた。血だ。
少年の右脇腹から酷く出血しているのだ。
「刺し傷だな」
ザイラスは低くつぶやくと、躊躇いなく外套を脱いで少年をくるみ、抱き上げて馬に飛び乗った。
「旦那様! 何事ですか! お止め下さい! 関わってはいけません!」
「そうはいくか。ここはレーゼンヴァルト選帝侯領だ。俺の名に賭けてこのような物騒な事件を見過ごせるか」
「でもどう考えても堅気の人間同士のいざこざじゃありませんよ! こんな年端もいかない少年に大怪我をさせるなんて! 旦那様の身に何かあったら……」
「なら、尚更見過ごす訳にはいかん。とにかくまずは屋敷に連れて帰る」
「もう……旦那様ときたら……はいはい分かりましたよ。急ぎましょう」
ニコロはやれやれといった様子で首を振ると、ザイラスの前に立って歩き始めた。
雪はあっという間に強くなり、樫の木の根元に広がる血痕を覆い隠してゆく。
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