第3話 目覚めた時

1/1
前へ
/25ページ
次へ

第3話 目覚めた時

 ここは……どこ?……暖かくて柔らかくて……こんな寝台で目覚めるのは本当に久しぶりだわ……  でも体が動かない……寒い……痛い……そう、確かあの時……囲まれて…… 「お嬢さん、気がつきましたか?」  誰? 女性の声…… 「私の声が聞こえる? 目を開けられますか?」  まぶしい……誰かしら……知らない人…… 「ああ、良かった! 坊ちゃま! 坊ちゃま! 気がつかれましたよ!」  ……待って、行かないで……何が起きているの……説明して……私……  その女性が部屋を出て行ってほどなく、扉の向こうに重い足音が聞こえ、一人の男性が入って来た。  寝台の横に立ち、顔を覗き込むが、逆光でほとんど表情が見えないままだ。  何か話さなければと必死に口を動かそうとするが、声が出ない。  低く落ち着いた声が聞こえる。 「リサ、水を」 「はい、どうぞ。ゆっくり、少しづつですよ。大丈夫、頭はそのまま。動いてはいけません」  この人、リサという名前なのね……  冷たい水が喉に染みこむと、辛うじて声が出せるようになった。 「ここは一体……」 「喋るな。そのまま私の言うことを聞いてくれ。昨日、東の城壁であなたを見つけた。怪我が酷かったのでうちに連れて帰った」  全然思い出せない。 「ここにいるリサの見立てによると、当分は絶対安静だそうだ。……まあ、色々訊きたいことはあるが、まずはゆっくり傷を治すがいい」 「……駄目……私……ここに留まっている訳には……行かないと……」 「無理だな」 「でも……急がないと……」 「無理なものは無理だ。今は動くな。死にたいのか」 「……死んでも……行かないと……う……っ」  起き上がろうとしたが、脇腹の激痛と酷い眩暈のせいで、そのまま力なく寝台に倒れ込んでしまった…… 「だから無理だと言っただろう。ここで大人しくしていろ。いいな」  声が遠ざかっていく。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加