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第3話 目覚めた時
ここは……どこ?……暖かくて柔らかくて……こんな寝台で目覚めるのは本当に久しぶりだわ……
でも体が動かない……寒い……痛い……そう、確かあの時……囲まれて……
「お嬢さん、気がつきましたか?」
誰? 女性の声……
「私の声が聞こえる? 目を開けられますか?」
まぶしい……誰かしら……知らない人……
「ああ、良かった! 坊ちゃま! 坊ちゃま! 気がつかれましたよ!」
……待って、行かないで……何が起きているの……説明して……私……
その女性が部屋を出て行ってほどなく、扉の向こうに重い足音が聞こえ、一人の男性が入って来た。
寝台の横に立ち、顔を覗き込むが、逆光でほとんど表情が見えないままだ。
何か話さなければと必死に口を動かそうとするが、声が出ない。
低く落ち着いた声が聞こえる。
「リサ、水を」
「はい、どうぞ。ゆっくり、少しづつですよ。大丈夫、頭はそのまま。動いてはいけません」
この人、リサという名前なのね……
冷たい水が喉に染みこむと、辛うじて声が出せるようになった。
「ここは一体……」
「喋るな。そのまま私の言うことを聞いてくれ。昨日、東の城壁であなたを見つけた。怪我が酷かったのでうちに連れて帰った」
全然思い出せない。
「ここにいるリサの見立てによると、当分は絶対安静だそうだ。……まあ、色々訊きたいことはあるが、まずはゆっくり傷を治すがいい」
「……駄目……私……ここに留まっている訳には……行かないと……」
「無理だな」
「でも……急がないと……」
「無理なものは無理だ。今は動くな。死にたいのか」
「……死んでも……行かないと……う……っ」
起き上がろうとしたが、脇腹の激痛と酷い眩暈のせいで、そのまま力なく寝台に倒れ込んでしまった……
「だから無理だと言っただろう。ここで大人しくしていろ。いいな」
声が遠ざかっていく。
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