<序章> プロローグ

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<序章> プロローグ

 250年の長きにわたるギャレドリア帝国の歴史の中で最も評価の分かれる男と言えば、歴史家達はまず間違いなくこの男の名を一番に挙げるだろう。  ザイラス=(サラマンダー)・レーゼンヴァルト選帝侯。  がっしりとした、いかにも軍人然とした体躯。無造作に短く刈り込んだ黒髪、闇夜よりも黒い瞳。  漆黒の甲冑を身に纏い、黒鹿毛の愛馬に跨って戦場を駆け抜ける姿はまさに死神と呼ぶに相応しい。  悪魔が通り過ぎた後は、枯草一本残らない……  征服した地ではこう評され、敗国の民からの憎悪と怨恨をただ一身に集める、百戦百勝の残虐な戦神。  反面、全領民に心から敬愛され、その賢政と繁栄の名声を帝国の隅々まで轟かせている名君。  彼は邪悪な魂に支配された悪魔なのか、それとも気高い志を持つ天使なのか?  尤も、ザイラス自身にこの質問を投げたとしても、彼は笑ってこう答えるだけであろうが。  「さあね、知るか」と……。
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