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プロット
守屋陽二の父親は、A国のスパイだったと、彼が高校2年生の時、母親から聞かされた。
母親の最期の言葉だった。
母親は、父親がスパイだとは知らずに結婚し、翌年には陽二を授かった。
陽二が12歳の時、家族で出かけた水族館の駐車場で、父親が乗った乗用車が爆発した。
その様子を彼は母親と一緒に目撃した。
二人は何が起こったのかすぐには理解できず、ただただ炎上する車を、映画のワンシーンのように眺めた。
そしてその光景が現実を帯びて来た頃には、二人とも気を失い、地面に倒れていた。
父は、良き夫であり良き父であった。だが同時に、いつもどこか遠くにいるような人だった。
父の遺品を整理したが、父の身内は1人も見つからなかった。それどころか、大学時代以前の友人すら1人も見つからなかった。
母が父と知り合ったのは大学時代で、母自身も大学時代以前の父のことをほとんど知らなかった。
父によると、彼は早くに両親を亡くし、親戚もおらず、天涯孤独の身の内だという。
そのせいで、高校時代は碌な付き合いもなく学校とバイトに明け暮れる毎日を送っていたという。
母の記憶によると、大学時代の父には友人が多くいたが、それも大学内での話で、プライベートな付き合いをした友人は、ただ1人を除いては見たことがないという。
その1人というのが、父親を亡くした未亡人の相談相手。ゆくは母親をも亡くした陽二の保護者として名乗り出てくれた佐伯祐治という人物だった。
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