墨のゆらめき/三浦しをん

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墨のゆらめき/三浦しをん

 三浦しをん作品とは、相性がいい。 どの作品も特別な気持ちで、心の本棚に保管している。 今回読んだ「墨のゆらめき」も、当然というか、やっぱりというか。 すごく心に響いた。 あぁ!そうだよ、同じ気持ちだよ!と思わず膝を打ったシーンは多々。 いわば、読者の代弁者なのだ、この作品は。 新しい作品なので、著作権の関係から、本文の抜き出しはしないで紹介する。 ただし、ネタバレも含むので、そのあたりは、あしからず。 主人公は、ホテルマンの通称チカと書道家の遠田。 対照的な性格の二人だけど、距離感がいい塩梅で。 そこはかとなく、イチャコラしているのもツボだ。 好きなシーンは、遠田が営む書道教室に通う小学生男子が、いじめにあっていたと告白したエピソードの中にある。 彼がいじめにあっていると知った担任教師は、加害者と被害者を仲直りさせようとする。 時代錯誤だと、私も思うけど。 こういう先生って、たぶん今でもいる。 そこへ、彼の友人が口をはさむ。 「なんで、彼がいじめをするような奴らと仲良くしなきゃいけないんですか?」 そうだ、そうだ、と思う。 そして、彼はなおも言う。 いじめをする奴は、かわいそうな奴なんだ。 相当ストレスが溜まっているんだろう。 けれど、だからと言って関係のない人間に当たり散らすのは、最低だ。 奴らがしなきゃいけないことは、「なんで自分は、いじめをしているのか」と、自分自身の問題と向き合うことだ。 そうなのだ。 いじめが起きていると、わかった時。 誰もが、被害者に同情の目を向ける。 そして被害者本人も「どうして自分は、いじめられてしまうのか?」と考える。 そんなの、理由なんてない。 ただ、偶然そこに、おあつらえ向きな人がいたから、だ。 考えるべきなのは「どうしてこの子は、いじめるのか?」だ。 被害者の子に向けて「逃げてもいいんだよ」と、よく言う。 それは、加害者を野放しにしているから、被害者が逃げるしか方法がなくなってしまうから。 本当は、被害者は逃げる必要なんてない。 いじめがあったらすぐに加害者を保護して、カウンセリングをする。 加害者の心の中の闇をどうにかしないと、いじめ問題の解決にはならない。 被害者を見つけるよりも先に、加害者を見つける。 とても難しいことだけど、被害者というのは、加害者がいなければ生まれない存在だからだ。 つづく。
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