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さて。
本のタイトルは「墨のゆらめき」
つまり、墨=書道の話である。
墨を筆に染み込ませ、紙の上に文字を載せる。
芸術とも職人ともいえる、精巧で繊細で大胆な作業。
この作品を読んでいると、書道教室に行ってみようかなと出来心が生まれそうだ。
このあたりの、表現や描写がうまい。
読者をスルスルと引き込んでいく。
この作品を読んで、もうひとつ心に響くシーンがある。
書道家の遠田の過去が薄暗いもので、ホテルマンのチカとは住む世界が違うと、遠田のシャッターが下ろされた時。
チカはそのシャッターの前で佇み、身をひるがえし、もう関わらない方が良いのでは、と考える。
どんな理由であろうと、シャッターの向こうにいる相手の手を握りに行けるだろうか?
とても怖い。
何が怖いって、再度シャッターを下ろされることが怖いのだ。
相手が大事な存在なら、なおのこと、踏み込めない。
チカは、どうしたか。
ネタバレだけど、まあ、小説なんだからわかるよね。
そうです。
踏み込んでいく。
えいや、って。
開き直って。
その勇気、欲しいなぁと感じる。
そんな作品。
心の本棚にしまっておこう。
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