第一章 舞翼の奏主の月二十七日 午後四時 3

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第一章 舞翼の奏主の月二十七日 午後四時 3

「あ~~、いた! リィル姉!」  宿泊手続きを終えて中庭に出るなり元気な声が聞こえた。  フルスの白い制服を着た活発そうな茶髪の女の子と、少し遅れて同じ服装の赤い髪の女の子が曲がり角から姿を現した。 「サラ! シャーリー! どうしたの!? 中庭で走ったら危ないってば……!」  一応聞こえたらしく、サラは走る速度を落として近くまで来た。 「リィル姉! 裏門に行ってあげて! 荷物がいっぱい届いて、ルーシェ姉が困ってる!」 「サファルさんとリーノさんは? この時間なら裏門にどちらかが待機してくれてると思うけど……」  聖殿には警備を担う聖騎士が常駐している。  中央聖殿ほど大きくなると小隊が守っているが、地方聖殿では多くても五名程度、聖騎士がいないところもある。  このフルス聖殿では、サファルという女性とリーノという男性の聖騎士が王都から来てくれている。 「お昼から出張……。フナツ村で魔犬がいっぱい出たって……」 「うわ、そうだったっけ……!」  村には自警団がいるが、昨今の魔獣の群れには歯が立たない。  とはいっても、辺境の村まで大聖殿や中央聖殿から聖騎士が来てくれるはずがなく、近隣の村で魔獣が確認されるとフルスに要請が入る。  フルスは聖水の守りが強固なことから、魔獣に襲われる可能性が低く、二人しかいない聖騎士を村に派遣できるのだ。  中央聖殿に比べると待遇も悪いし、山間部は魔獣の襲撃が多いにもかかわらず、自ら志望してきてくれた二人には頭が上がらない。 「サファルさんとリーノさんって?」  事務局から出てきたイグを見た二人は幽霊を見たように固まった。  小さな頭がぎこちなく移動し、イグの胸の入場証で止まる。 「ごめん……、驚かせちゃったかな?」 「もしかして……、お客さん……ですか……?」 「ウソ! まだお祭り、始まってないよ!?」 「……そんなに、普段は誰も来ないの?」  神妙な顔で頷く二人に、さすがに居た堪れない気分になった。
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