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第二章 一日の終わりに 3
「リィル?」
静かだがよく通る声が呼んだ。
開いたままの扉からベリアが入ってきたところだった。
「叔母様……!」
「珍しいわね。こんな時間に礼拝堂にいるなんて……」
ゆったりとした動きでベリアはリィルの目の前まで来た。
「悩み事かしら?」
「え、えっと……」
何かを悟ったのか、ベリアはにっこりと微笑んだ。
「私で良ければ、聞かせてもらえないかしら? 少しは力になれると思うの」
ベリアは幼い頃に死に別れた母の妹だ。うっすらと覚えている母と顔立ちが良く似ているが、強気で戦士のような性格だった母とは正反対の、優しくておっとりした性格をしている。紅龍皇帝領の女性精霊族には珍しいタイプだ。そのせいか、どうにも意地を張る気になれない。
「……悩んでるってほどじゃないけど……。あたし……、本当に巡礼士になってもいいのかな、って……」
「あら、どうして?」
「だ、だって……、来年からの祭典……、今でも忙しいのに……っ」
「それなら大丈夫。サラとシャーリーが貴女の分も頑張るって言ってくれているわ。あの子達だって、もう立派なフルスの一員なのよ?」
「うん……、それはわかってるんだけど……、」
クスリと叔母は笑った。
精霊族は精霊の眷族だ。人間よりも寿命が長く、成長期を終えれば時の流れもゆるやかになる。その証拠に、リィルと二十歳離れているはずなのに、ベリアの外見は若く、「姉」だと紹介したところで、疑問に思う人は少ないだろう。
「深刻なほど本音を隠すのは、小さい頃から変わらないわねえ。そういうところ、姉さんとよく似てるわ」
「そ、そうかな……?」
「それで、本当の理由はなあに?」
――ハメられた……!?
叔母のペースにしっかり乗ってしまったことに気づき、小さく呻く。
「あの……、怒らないで聞いてね?」
ベリアは笑顔で先を促した。
「どうして巡礼士を目指してるのか、わからなくなってきちゃって……。辞退しようか迷ってて……」
応援してくれた叔母に申し訳なくて、視線を彷徨わせた。
温かい手がポンポンと肩を叩いた。
「良い機会だわ……。少し、お話しましょうか」
隣に腰を下ろし、ベリアは龍を眺めた。
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